結論から書きます。2025年(令和7年)の改正風営法でホストクラブを名指しした条文はできていません。 増えたのは「接待飲食営業」全体にかかる行為のルールです。ホストクラブもキャバクラもスナックも同じ枠に入り、その中で「この行為をしたらアウト」という線だけが新しく引かれました。
そしてもうひとつ。この改正は一度に効き始めたわけではありません。 大部分は2025年6月28日から、風俗営業の許可に関する部分だけは同年11月28日から施行されています。ニュースで「11月から規制強化」と読んだ記憶と、「6月から施行」と読んだ記憶が両方ある人がいるとすれば、どちらも間違いではありません。
この記事は、その改正そのものを最初から最後まで通して読めるようにするためのものです。何が問題視され、誰がどう議論し、条文としてどう書かれ、いつから効き始め、施行後に何が起きたのか。ホストクラブの営業スタイル自体の説明は友営・色恋・本営の違いの記事、色恋営業の記事、本営の記事に譲り、ここでは改正法の中身だけを追います。
この記事で分かること
- 改正のきっかけになった悪質ホストクラブ対策検討会と、その報告書が示した方向性
- 法案が国会をどう通ったか(提出から公布までの実際の日程)
- 改正の4本の柱と、それぞれの条文番号
- 施行日が6月28日と11月28日の2つに分かれた理由と、その分かれ目
- 新設された遵守事項(第18条の3)と、警察庁の解釈運用基準が示した具体例
- 罰則が付いた禁止行為(第22条の2)と、「威迫」「誘惑」の定義
- 働く側にかかる第18条の2が、今回の改正でどう扱われたか
- スカウトバックの禁止と、無許可営業の罰則が大幅に引き上げられた理由
- 条文の外側で動いた広告宣伝の通達(ランキング表示の扱い)
- 施行後1年目の数字——立入り、行政処分、検挙、相談
改正はどこから始まったか——検討会と報告書
2024年7月、警察庁に検討会が置かれた
出発点は、2024年(令和6年)7月に警察庁が設置した悪質ホストクラブ対策検討会です。会議は同年7月から12月までの間に計5回開かれ、被害者支援団体、繁華街の事業経営者、関係省庁などからヒアリングが行われました。
検討会がまとめた報告書は2024年12月に公表されています。冒頭で挙げられている問題は二つです。ひとつは、入店時の説明とは異なる高額な料金の請求や、酩酊・恋愛感情を利用して高額な注文をさせる行為。もうひとつは、支払えない客が売掛金・立替金の名目で多額の借金を負い、その返済のために売春や性風俗店での稼働を求められるという流れです。
報告書が確認した数字
報告書には、議論の前提になった数字が載っています。
- ホストクラブに当たるとみられる営業所は、令和6年4月時点で全国におおむね1,000店舗。うち約30%が東京、約20%が大阪
- 女性相談支援センターが受ける悪質ホストクラブ等に関する相談は月に30件前後(厚生労働省の数字として引用)
- 全国警察におけるホストクラブ関係の相談受理件数は、令和3年2,044件、令和4年2,089件、令和5年2,675件、令和6年は10月末時点で2,362件
- 悪質ホストクラブに係る検挙事件は、令和5年1月から令和6年6月までで83事件・203人。うちホストが90人、その他ホストクラブ関係者が64人
「ホストクラブだけを規制する」という道は取られなかった
報告書の核心は、規制の切り口をどこに置くかという判断です。
検討会では「コンセプトカフェといった業態もあり、ホストクラブに特化した形でルール化することは難しいのではないか」「1号営業から悪質ホストクラブを切り出して定義して規制するよりも、行為や手段に着目した規制とした方がやりやすいのではないか」といった意見が出されました。高額な料金請求そのものを縛れば、クラブやキャバクラを含む1号営業全体に厳しい規制が及んでしまう、という指摘もあります。
そこで得られた共通認識が、次の3点でした。
- ホストクラブに限定して規制するのは困難であることから、規制する行為を、悪質ホストクラブ特有の悪質な行為や、他の業態であってもおよそ認められないような悪質な行為に限定することが適当
- 営業に関する悪質な行為については、被害者の性別にかかわらず規制することが適当
- 借金を蓄積させる段階と、悪質に取り立てる段階に分けて規制の在り方を検討することが適当
この3点が、そのまま条文の形になりました。 後で見るように、新設された条文には「ホストクラブ」も「女性」も出てきません。「接待飲食営業」「接客従業者」「客」という言葉だけで書かれています。
なお報告書は、「恋愛感情に付け込んで女性を依存させる行為を規制する場合、恋愛の自由との関係で、規制の必要性、合理性、規制を裏付ける立法事実がないと憲法との関係で問題がある」という意見も記録しています。規制の範囲が過度に広がらないよう慎重に検討する必要がある、というただし書きが繰り返し出てくるのが、この報告書の特徴です。
法案は国会をどう通ったか
改正法案(内閣提出)の実際の日程は、参議院のウェブサイトで確認できます。
| 日付 | できごと |
|---|---|
| 2025年3月7日 | 法案が国会に提出される(参議院先議) |
| 3月31日 | 参議院内閣委員会に付託 |
| 4月3日 | 参議院内閣委員会で可決 |
| 4月9日 | 参議院本会議で可決(全会一致) |
| 5月13日 | 衆議院内閣委員会に付託 |
| 5月16日 | 衆議院内閣委員会で可決 |
| 5月20日 | 衆議院本会議で可決(全会一致)=成立 |
| 5月28日 | 公布(令和7年法律第45号) |
両院とも全会一致です。 検討会の報告書が2024年12月、法案提出が2025年3月ですから、報告書から法案までは3か月足らずでした。
公布の直後から、警察庁の通達が続けて出ています。5月30日に解釈運用基準の改定、6月4日に広告及び宣伝の取扱いに関する通達、6月6日に施行通達。条文だけでなく、この3本の通達を合わせて読まないと改正の全体像は見えません。 以下、順に見ていきます。
改正の4本の柱
警察庁が公表した改正の概要によれば、柱は次の四つです。
- 接待飲食営業に係る遵守事項・禁止行為の追加(第18条の3、第22条の2、第53条)
- 性風俗店によるスカウトバックの禁止(第28条、第31条の3、第53条)
- 無許可営業等に対する罰則の強化(第49条、第57条)
- 風俗営業からの不適格者の排除(第4条ほか)
ここでいう「接待飲食営業」とは、風営法第2条第1項第1号の「設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」のことです。ホストクラブは明確な法律上の定義を持たず、この1号営業の一形態として扱われます。 そして1号営業には、キャバクラやスナックも含まれます。
施行日はなぜ2つに分かれたのか
改正法の附則第1条は、こう定めています。
- 原則:公布の日から起算して1月を経過した日から施行 → 2025年6月28日
- 例外:第4条第1項の改正規定などは、公布の日から起算して6月を経過した日から施行 → 2025年11月28日
つまり、上の4本の柱のうち1から3までが6月28日、4だけが11月28日です。施行通達(令和7年6月6日付け警察庁丙保発第9号)も、「風俗営業の許可に係る不許可事由の追加に係る改正規定を除き、本年6月28日から施行される」と明記しています。
分かれた理由は、4だけが許可の入口に関わるルールだからです。許可申請を出す側にも審査する側にも準備期間が要ります。施行通達には、11月28日より前に出された申請で、その日までに処分が済んでいないものは施行後の規定による申請とみなされることになるため、申請者に丁寧に説明してトラブルを防ぐように、という指示まで書かれています。
「2025年11月28日から全面施行」という言い方は、この日ですべてが出そろったという意味では正しく、それ以前は何も効いていなかったという意味では誤りです。 実際、後で見る検挙事例には、2025年7月時点で新しい条文が適用されたものがあります。
新設された遵守事項——第18条の3
条文の構造
新設の第18条の3は「客の正常な判断を著しく阻害する行為の規制」という見出しで、1号営業を営む風俗営業者がしてはならない行為を3つ挙げています。
- 第1号:料金についての虚偽説明・誤認させる説明
- 第2号:客の恋愛感情等につけ込んだ飲食等の要求
- 第3号:客が注文していない飲食等の提供
第2号は要件が細かく、要素が全部そろって初めて違反になります。詳しくは色恋営業の記事で扱っているので、ここでは第1号と第3号、そして警察庁の解釈運用基準が示した具体例を中心に見ます。
解釈運用基準が示した「それでも大丈夫」
風営法の条文は抽象的です。実際の線引きは、警察庁が出す解釈運用基準という通達で示されます。現行のものは2026年(令和8年)7月1日付け(警察庁丙保発第3号ほか)で、2025年5月30日付けの改定以来、内容が引き継がれています。
第1号の「客を誤認させるような説明」について、基準はこう説明しています。料金と明示的に異なる額を説明していなくても、一定の額しか持ち合わせがないと支払限度額を申告した客に対して「それでも大丈夫」等と申し向け、その範囲内でのみ飲食等を提供すると誤った認識を与える説明をした場合が、これに当たる——。
「嘘をついていない」ことと「誤認させていない」ことは別だ、という整理です。
第3号は「シャンパンコール」を名指ししている
第3号は、客が注文の意思表示をする前に遊興・飲食の全部または一部を提供することで客を困惑させ、それによって遊興・飲食をさせる行為を禁じています。この「提供すること」について、解釈運用基準は具体例を挙げています。
- いわゆるシャンパンコールを行うこと
- いわゆるシャンパンタワーを組み上げること
- 接客従業者が自ら飲酒するためにシャンパンを開栓すること
- 客に飲酒させるためにシャンパンボトルを開栓すること、料理を提供すること
そして「それによって遊興をさせ、若しくはしたものとさせ」に当たる例として、注文前にシャンパンタワーを組み上げて渋々応じさせること、注文前にシャンパンコールを実施し終えて、それによって醸し出された雰囲気を享受したものとさせることが挙げられています。
演出そのものが禁じられたのではありません。 禁じられたのは、注文の意思表示より先に始めてしまい、それによって客を困惑させて引き受けさせることです。段数と本数の話はシャンパンタワーの費用の記事にありますが、法律が見ているのは金額ではなく順番だ、と考えると分かりやすくなります。
第2号について基準が触れた3点
第2号(恋愛感情等につけ込んだ要求)についても、基準は実務的な補足をしています。この記事で押さえておきたいのは次の3点です。
- 「降格、配置転換その他の業務上の不利益」には、営業所内における序列の降格や遠隔地への左遷のほか、減給や報酬の減額等も含まれる
- 「必要不可欠である旨を告げること」は、その言葉をそのまま使う必要はなく、勧誘行為全体としてそれと同等程度の必要性・切迫性が示されていれば足りる
- いわゆる「推し活」の一環として好意の感情を抱く客に対する行為でも、要件を満たせば違反になる
3点目は、この改正が想定している場面が「恋愛」に限られていないことを示しています。応援する気持ちも「好意の感情」に含まれる、というのが基準の立場です。
違反したらどうなるか
第18条の3は「遵守事項」であり、それ自体に罰則はありません。 効き方は行政処分です。公安委員会は、風俗営業者やその代理人等が営業に関し法令に違反した場合、必要な指示をすることができ(第25条)、程度によっては許可の取消し、または6か月を超えない範囲での営業停止を命じることができます(第26条)。
なお第18条の3の柱書きの「風俗営業者」には代理人等が含まれるため、基準は、接客従業者が代理人等に当たる場合にはその者の認識を認定することになると説明しています。従業員一人の行為が、店の許可に跳ね返る構造です。
罰則が付いた禁止行為——第22条の2
二つの禁止行為
同じ改正で新設された第22条の2は、1号営業を営む者に対する禁止行為です。こちらは直罰があります。
- 第1号: 客に注文等をさせ、または料金の支払等をさせる目的で、客を威迫して困惑させること
- 第2号: 客に対し、威迫し、又は誘惑して、料金の支払等のために、売春防止法その他の法令に違反する行為、性風俗店での稼働、性行為映像制作物への出演、外国での売春などによって金銭その他の財産を得ることを要求すること
違反すると、6か月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科の対象になります(第53条第2号)。
第18条の3が「風俗営業者」を名宛人にしているのに対し、第22条の2は「営業を営む者」が名宛人です。 許可を受けているかどうかを問いません。
「料金の支払等」に何が入るか
第22条の2でいう「料金の支払等」の範囲を、解釈運用基準はかなり広く説明しています。挙げられているのは次のようなものです。
- 「売掛金」等と称される料金の事後の支払(掛払い・ツケ払い)
- 接客従業者が客に代わって支払った場合(立替え)の、求償権に係る債務の弁済
- 飲食等の日時や内容が特定された合意があり、注文の契約が成立していると評価できる場合の「前入金」等と称される事前の支払
- 来店頻度や利用額を増やすよう求めた場合の、将来の来店時に発生する料金の支払
- 違約金等の名目による金銭の交付や、応援する接客従業者に対する贈与(いわゆる「おひねり」)
- 接客従業者が料金相当額を客に貸し付けた場合の、その貸金債務の弁済
- 準消費貸借契約(民法第588条)によって料金の支払債務を貸金債務にした場合の、その債務の弁済
呼び名を変えても射程から外れない、という設計です。 検討会の報告書には、自主的に「売掛金の禁止」を宣言した店でも呼称を「立替金」等に変えただけで実質的な改善が見られないという指摘が記録されており、その指摘への回答がここに表れています。客の呼び分けの話は太客・細客の記事でも触れていますが、法律の側は「誰が」よりも「どの名目の金か」を細かく数えています。
「威迫」と「誘惑」の定義
基準は、二つの言葉をこう定義しています。
- 威迫:人を畏怖させるまでには至らないが、言語・動作・態度をもって気勢を示し、相手に不安・困惑の念を生じさせる行為。例として、客に料金を支払わせるために声を荒げること
- 誘惑:甘言を弄することによって相手方を動かし、その判断の適正を誤らせること。例として、「ホストとして成功したら結婚したい。そのためには、売春してもっと売上げに貢献してほしい」等と申し向けること
「誘惑」が並んでいることの意味は小さくありません。 脅すことだけでなく、優しい言葉で判断を誤らせることも、この条文では同じ扱いになります。
働く側にかかる条文——第18条の2は今回どうなったか
ここは誤解が生まれやすいところなので、はっきり書きます。第18条の2「接客従業者に対する拘束的行為の規制」は、2025年の改正で新設された条文ではありません。 e-Gov法令検索で改正前の条文を確認すると、同じ内容が改正前から置かれており、今回の改正では手が入っていません。
内容は、接待飲食等営業を営む風俗営業者に対する二つの禁止です。
- 第1項第1号: 接客従業者に対し、接客従業者でなくなった場合には直ちに残債務を完済することを条件として、その支払能力に照らし不相当に高額の債務を負担させること
- 第1項第2号: そのような債務を負担させた接客従業者の旅券等(パスポート、運転免許証など)を保管し、または第三者に保管させること
解釈運用基準は、この規定の趣旨を「接客従業者が売春をすることを助長するおそれがあると認められる拘束的行為を規制する」ことだと説明し、「不相当に高額の債務」をその者が接客従業者として通常得る収入等に照らした返済能力に比べ、社会通念上著しく均衡を失すると認められる程度に高額な債務と定義しています。利息制限法などで全部または一部が無効とされる債務や、公序良俗に反する契約に基づくもの、詐欺・強迫・錯誤に基づくものも含まれます。
同条第2項は、接客業務受託営業(いわゆる派遣型の接客業務の受託)を営む者が拘束的行為等をしている疑いがあると認められるときに、その相手方となっている人を客に接する業務に従事させないための措置をとることを義務づけています。基準は、措置の例として派遣の受入れを拒否する旨を申し入れること、契約を解除することを挙げています。
つまり、2025年の改正は「客を守る側」に集中しています。 働く側の保護は改正前からある第18条の2が担い、そこは今回動いていません。報告書も、この条文を「現状」の説明として引用するにとどめています。この違いを知らずに「改正で働く側も守られるようになった」と読むと、事実からずれます。
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スカウトバックの禁止
2本目の柱です。性風俗店を営む者が、スカウト等から求職者の紹介を受けた場合に、その紹介の対価として金銭その他の財産上の利益を提供することが禁じられました(第28条第13項。無店舗型については第31条の3で準用)。罰則は第53条第7号で、6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
施行通達は趣旨をこう書いています。紹介の対価の支払が、その営業における女性の売春を助長するものであるから禁止する——。
適用関係についての注意書きもあります。施行前に紹介を受けていたとしても、施行後に対価を提供する行為が行われていれば罪が成立する、という点です。
無許可営業の罰則が跳ね上がった理由
3本目の柱は罰則の強化です。
| 改正前 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 無許可営業等(第49条) | 2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 | 5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金 |
| 法人への罰金(両罰規定・第57条) | 200万円以下 | 3億円以下 |
対象は、無許可営業のほか、許可等の不正取得、名義貸し、営業停止命令等違反、性風俗特殊営業の禁止区域営業などです。
注目したいのは、施行通達に書かれた理由です。 一つは、接待飲食営業への規制強化に伴い、これを免れるために許可を受けないまま違法に接待を行う業態へ移行することが想定されること。もう一つは、風俗営業等は短期間で高額の売上げを得ることができており、現行の罰則では刑罰の感銘力が十分にあるとはいえないこと。
つまり第1の柱を実効的にするための裏づけとして、第3の柱が置かれています。検討会の報告書にも、無許可でホストクラブのような接待をしていた「メンズコンセプトBAR」「メンズコンセプトカフェ」の検挙例が複数挙げられていました。
2025年11月28日施行分——許可の入口
4本目の柱、風俗営業からの不適格者の排除です。これだけが2025年11月28日施行でした。
風営法第4条第1項は、公安委員会が許可をしてはならない場合(不許可事由)を並べた条文です。改正で加わった主なものは次のとおりです。
- 親会社等の関係にある法人が許可を取り消され、5年を経過していない場合(第7号)。株式の所有その他の事由を通じて事業を実質的に支配し、または重要な影響を与える関係にある法人が対象で、親会社等・その傘下の法人・申請者が支配する法人の3方向がカバーされています
- 立入調査後に許可証を返納した者(第8号ロ)。第37条第2項の立入りが行われた日から「聴聞決定予定日」までの間に許可証を返納した者は、返納の日から5年を経過するまで許可を受けられません。取消処分を受ける前に自分から店を畳んで、処分歴を残さずに出直すという道をふさぐ規定です
- 暴力的不法行為等を行うおそれがある者が、出資・融資・取引その他の関係を通じてその事業活動に支配的な影響力を有する者(第13号)
第8号ロの「立入りの日から」という起点は、実務上の意味が大きい部分です。 聴聞の公示より前、立入りの段階から時計が動き始めます。
施行後、実際に何が起きたか
警察庁が2026年4月に公表した「令和7年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯等の取締り状況について」に、施行1年目の数字が載っています。
店舗数と相談
- 令和7年12月末時点で、ホストクラブに当たるとみられる1号営業の営業所は全国で約1,100店舗。約33%が東京、約19%が大阪
- 全国警察におけるホストクラブ関係の相談受理件数は、令和3年2,044件、令和4年2,089件、令和5年2,675件、令和6年2,776件、令和7年2,369件
立入りと行政処分
- 令和7年中のホストクラブへの立入りは延べ1,083店舗
- 行政処分は251件。内訳は、風俗営業許可の取消しが5件、風営法または県迷惑防止条例に基づく営業停止命令が8件、指示処分が238件
行政処分の9割以上が指示処分である点は、第18条の3が「遵守事項」として設計されたこととつながっています。
検挙
- 令和7年中の悪質ホストクラブに係る検挙は71事件(前年比−10事件)、143人(前年比−64人)
- 内訳は、ホスト54人、その他ホストクラブ関係者33人、性風俗店関係者4人、客引き34人、スカウト18人
- 前年(令和6年)は207人、その前年(令和5年)は86人
新しい条文が実際に使われた事例
同じ資料には、改正で新設された条文が適用された事例が挙げられています。
- 令和7年7月、飲食料金の支払をさせる目的で利用客を威迫して困惑させたとして、ホストクラブ経営者を風営法違反(客に注文や料金の支払等をさせる目的での威迫)で検挙(愛知県警察)。同経営者に対しては、令和7年11月に風俗営業許可の取消し(愛知県公安委員会)
- 令和7年11月、利用客を誘惑して、飲食料金の支払等のために売春をすることにより金銭を得ることを要求したとして、ホストクラブ従業員を風営法違反で検挙(福岡県警察)
- 令和7年10月、スカウトから紹介を受けた対価として現金を提供したとして店舗型性風俗特殊営業の営業者を検挙し、123日間の営業停止(熊本県公安委員会)
警察庁が別に公表している検挙事例集にも、「がんばって今日3万いこう」「応援してるだいすき」といったメッセージを送って誘惑したとされる事例と、「お前舐めすぎやろ」といったメッセージを送って威迫したとされる事例が並んでいます。同じSNSのやり取りでも、条文の側では別々の号として整理されるということです。
条文の外側で動いたもの——広告宣伝の通達
改正法そのものには広告の規定はありません。しかし2025年6月4日、警察庁は「接待飲食営業における広告及び宣伝の取扱いについて」という通達(丁保発第104号)を出しました。改正の話をするなら、これを外すわけにはいきません。
使われたのは既存の第16条
通達が根拠にしたのは、改正で新設された条文ではなく、以前からある第16条です。同条は「風俗営業者は、その営業につき、営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない」と定めています。
通達の理屈はこうです。ランキング制などで接客従業者に営業成績を競わせ、それを広告物に出すと、客には好意を抱く相手の成績を上げるために高額の飲食をする意欲が生じ、接客従業者には成績向上のためには違法行為もいとわない意識が醸成される。これは料金トラブルにつながる雰囲気を営業所の外に拡散させるものだから、第16条の規制対象になる——。
規制違反に当たるとされた4類型
通達は、次のいずれかに当たる表示を規制違反と解する、としています。例示まで具体的です。
- 接客従業者の営業成績を直接的に示す文言(例:「年間売上〇億円突破」「〇億円プレイヤー」「指名数No.1」「億超え」「億男」)
- 営業成績が上位であることを推認させる役職名等(例:「総支配人」「幹部補佐」「頂点」「winner」「覇者」「神」「レジェンド」「新人王」)
- ランキング制自体の存在や、接客従業者間の競争を強調する文言(例:「売上バトル」「カネ」「SNS総フォロワー数〇万人」)
- 好意を抱く接客従業者を応援することを過度にあおる文言(例:「〇〇を推せ」「〇〇に溺れろ」)
店内の掲示物も対象になる
通達は屋外の広告物だけを見ているわけではありません。風営法施行規則第7条は、1号営業の技術上の基準として「善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと」を定めており、法第12条は営業所の構造・設備をこの基準に適合するよう維持する義務を課しています。そのため、営業開始後に店内へそうした広告物を設置した場合は、第12条の維持義務違反になる、というのが通達の整理です。
対応は段階的です。まず行政指導を行い、従わない場合に第25条に基づく指示処分等を検討する。さらに、都道府県警察の対応をそろえるため、当分の間、広告宣伝の規制等違反に対する行政処分を行う場合はあらかじめ警察庁保安課と調整することとされています。
この考え方は通達だけで終わらず、現行の解釈運用基準にも書き込まれました。 第16条の解説に、「接客従業者の指名数、売上額等の営業成績や役職を殊更に強調するなど……歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸し出すもの」が規制対象になると明記されています。一方で、単に店名と料金のみを表示する広告や、単に色彩が派手な広告は、清浄な風俗環境を害するおそれがあると認められる場合を除き規制の対象にならない、というただし書きも同じ基準に置かれています。
よくある質問
Q1. 結局、2025年の改正でホストクラブは何が禁止されたのですか?
ホストクラブという業態を名指しした禁止はありません。 接待飲食営業(風営法第2条第1項第1号の営業)全体に対して、(1)料金の虚偽・誤認説明、(2)客の恋愛感情等につけ込んだ飲食等の要求、(3)注文前の飲食等の提供による困惑——の3つが遵守事項として禁じられ(第18条の3)、さらに(4)注文や支払をさせる目的での威迫、(5)威迫・誘惑による売春等の要求——の2つが罰則付きで禁じられました(第22条の2)。1号営業にはキャバクラやスナックも含まれます。
Q2. 施行日は6月28日ですか、11月28日ですか?
両方です。 改正法は2025年5月28日に公布され、附則第1条により、原則として公布から1月を経過した6月28日に施行されました。ただし風俗営業の許可に係る不許可事由の追加(第4条第1項関係)だけは、公布から6月を経過した11月28日施行です。第18条の3と第22条の2は6月28日から効いています。
Q3. 「推し活」でお金を使うのも規制されるのですか?
「推し活」そのものが規制されたわけではありません。 ただし解釈運用基準は、推し活の一環として接客従業者に好意の感情を抱く客に対する行為でも、第18条の3第2号の要件を満たせば違反になる、と明記しています。同号は、客が「相手も同じ感情を抱いている」と誤信していることを店側が知りながらそれに乗じ、条文が挙げる特定の告知をして困惑させ、それによって飲食させることを求めています。要件が積み重なって初めて違反になる点は変わりません。
Q4. シャンパンタワーやシャンパンコールはもうできないのですか?
禁止されたのは演出ではなく、注文の意思表示より先に始めて客を困惑させることです。 解釈運用基準は、注文等の前にタワーを組み上げて渋々応じさせることや、注文等の前にコールを実施し終えて雰囲気を享受したものとさせることを、第18条の3第3号に当たる例として挙げています。客が注文したうえで行われる演出まで一律に禁じたものではありません。
Q5. 「〇億円プレイヤー」といった看板が減ったのは法改正のせいですか?
改正法の条文ではなく、通達によるものです。 2025年6月4日付けの警察庁通達が、営業成績を直接示す文言、成績上位を推認させる役職名、ランキング制や競争を強調する文言、応援を過度にあおる文言を、風営法第16条(広告及び宣伝の規制)違反に当たると整理しました。まず行政指導が行われ、従わない場合に第25条の指示処分等が検討されます。店内の掲示物も、法第12条の維持義務違反として同様に扱われ得ます。
Q6. 改正で、働く側(ホストなど)を守るルールも増えたのですか?
今回の改正では増えていません。 接客従業者を守る第18条の2(不相当に高額の債務を負わせることの禁止、旅券等の保管の禁止)は改正前から存在し、2025年の改正で内容は変わっていません。2025年の改正は客側の被害防止に焦点を当てたもので、働く側の保護は既存の条文と、風営法以外の法律(労働基準法、職業安定法など)が担っています。
Q7. 改正後、取締りは増えたのですか?
件数だけを見ると減っています。 警察庁の資料によれば、令和7年中の悪質ホストクラブに係る検挙は71事件・143人で、前年より10事件・64人減りました。ホストクラブ関係の相談受理件数も令和6年の2,776件から令和7年は2,369件に減っています。一方で立入りは延べ1,083店舗、行政処分は251件(許可取消し5件、営業停止命令8件、指示処分238件)行われています。数字の増減の理由は資料に書かれていないため、断定はできません。
Q8. 客として、いま確認しておくべきことは何ですか?
料金の掲示と説明です。 風営法第17条は営業所で客に見やすいように料金を表示することを義務づけており、第18条の3第1号はその料金についての虚偽・誤認説明を禁じています。持ち合わせを伝えたうえで「それでも大丈夫」と言われた場合が誤認説明の例として基準に挙がっていることも、知っておいて損はありません。なお、ここに書いたのは一般的な情報であり、実際にどう扱われるかは個別の事情によって異なります。 請求や契約で困ったときは消費者ホットライン「188」、身の危険を感じるときは警察相談専用電話「♯9110」へ。
この記事の要点
- 2025年の改正風営法に「ホストクラブ」を名指しした条文はない。 規制は接待飲食営業(1号営業)全体にかかり、キャバクラやスナックも同じ枠に入る
- 出発点は2024年7月設置の悪質ホストクラブ対策検討会(計5回、同年12月に報告書)。「業態ではなく行為で切る」「被害者の性別を問わない」「借金を積む段階と取り立てる段階を分ける」という方針がそのまま条文になった
- 法案は2025年3月7日提出、参議院・衆議院とも全会一致で可決、5月20日成立、5月28日公布(令和7年法律第45号)
- 施行日は2つ。 大部分は2025年6月28日、風俗営業の許可に係る不許可事由の追加だけが同年11月28日
- 第18条の3(遵守事項・罰則なし) は、料金の虚偽/誤認説明・恋愛感情等につけ込んだ要求・注文前の提供の3つ。効き方は行政処分(第25条・第26条)
- 第22条の2(禁止行為・罰則あり) は、注文や支払をさせる目的での威迫と、威迫・誘惑による売春等の要求。第53条第2号で6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 解釈運用基準は、「それでも大丈夫」「シャンパンコール」「推し活」「おひねり」「前入金」「立替え」といった現場の言葉を名指しして線を示している
- 第18条の2(働く側の保護)は改正前からある条文で、2025年の改正では変わっていない
- スカウトバックの禁止(第28条第13項ほか)、無許可営業の罰則強化(第49条は5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、法人は第57条で3億円以下)も同じ改正に含まれる
- 条文の外では、2025年6月4日の広告宣伝通達が「〇億円プレイヤー」「指名数No.1」「〇〇を推せ」などの表示を第16条違反と整理した。店内の掲示物も第12条の維持義務違反になり得る
- 施行1年目(令和7年)は、立入り延べ1,083店舗、行政処分251件、検挙71事件・143人、相談2,369件
- 法令は改正され、通達は差し替えられる。 ここに書いたのは2026年8月時点で公表されている資料に基づく整理であり、個別の事案の判断を示すものではない
改正の全体像を一度通して読んでおくと、ニュースの見出しだけでは分からない部分——どの条文が罰則付きで、どれが行政処分なのか、いつから効いているのか——が切り分けられるようになります。線がどこに引かれたかを知っておくことは、店に通う側にとっても、働く側にとっても、余計な不安を減らすことにつながります。
夜の街の制度の話とは別に、街ごとの出会いの場や過ごし方を知りたい方は、市区町村ごとにまとめた出会いガイドもあわせてどうぞ。
参考情報
- e-Gov法令検索「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(現行条文および改正前条文) https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000122
- 警察庁「悪質ホストクラブ対策について」 https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/hostclubto/hostclubto.html
- 警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律(概要)」 https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/hostclubto/070528huueihougaiyou.pdf
- 警察庁「悪質ホストクラブ対策に関する報告書」(悪質ホストクラブ対策検討会、令和6年12月) https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/hostclubto/saisyuuhoukokusyo1.pdf
- 警察庁「検挙事例」(改正風営法の適用事例) https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/hostclubto/260309zireiset.pdf
- 警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律の施行等について(通達)」(令和7年6月6日付け丙保発第9号) https://www.npa.go.jp/laws/notification/seian/hoan/250606sekoutuutatsu.pdf
- 警察庁「接待飲食営業における広告及び宣伝の取扱いについて(通達)」(令和7年6月4日付け丁保発第104号) https://www.npa.go.jp/laws/notification/seian/hoan/250603koukokusenden.pdf
- 警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)」(令和8年7月1日付け丙保発第3号ほか) https://www.npa.go.jp/laws/notification/seian/hoan/hoantsutatu2/R080701kaisiyaku.pdf
- 警察庁「令和7年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯等の取締り状況について」(令和8年4月) https://www.npa.go.jp/news/release/2026/080423huzokukankeitoukei.pdf
- 参議院「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案(議案情報)」 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/217/meisai/m217080217047.htm
本記事は公表資料に基づく一般的な情報の整理であり、個別の店舗の運用や、個別の事案に対する法的判断を示すものではありません。法令は改正されることがあり、通達も差し替えられます。条例の内容は地域によって異なります。契約や請求に関するトラブルは消費者ホットライン「188」へ、身の危険を感じる場合は警察へご相談ください。

