結論から書きます。ホストの出勤前の数時間は、「自由時間」と「仕事」が混ざった状態になりやすく、その混ざり方によって、賃金が発生するかどうかも、かかった費用を誰が負担するかも変わります。 そして、どちらに転ぶかを決めるのは「準備」という言葉ではなく、義務づけられていたか、どこで行ったか、契約が雇用か業務委託かという三つの条件です。
この記事は、出勤前のスケジュール表を並べる記事ではありません。出勤前に何が集まってくるのかを、営業時間の制約から順に説明したうえで、その時間が労働時間として評価されるのか、その間に出ていくお金がどう扱われるのかを、最高裁判例・厚生労働省のガイドライン・国税庁の資料で確認していきます。
1日の流れ全体(起床から退勤まで)はホストの1日はどんな生活?で扱っています。ここでは出勤前という一区間だけを、時間の中身と、その時間の値段という二つの角度から掘り下げます。
この記事で分かること
- 出勤前に予定が集まるのは、営業できる時間帯が法律で区切られているから、という構造
- 出勤前の時間を三つの層(私生活/自分のための準備/店の指示で動く時間)に切り分ける方法
- 「準備の時間は労働時間か」の判断枠組み(最高裁の物差しと、厚生労働省ガイドラインの三類型)
- 事業場の中で行うか外で行うかで、結論が変わりうる理由
- 業務委託契約の場合に、この枠組みがどこまで効くのか
- 出勤前に出ていくお金(身支度・移動・同伴)を誰が負担するのか、経費になるのか
- 深夜に働く人向けに用意されている健康診断の制度
「出勤前に何をしているか」に、公的な統計は存在しない
先に限界を書いておきます。ホストが出勤前の時間をどう使っているかを調べた公的な統計はありません。 職業別の統計に「ホスト」という区分がないことはホストの給料の仕組みでも触れたとおりで、生活時間の調査に至ってはなおさらです。
ですから、この記事は「平均◯時間」「◯時に美容室へ行く」といった数字を出しません。代わりに、制度上どうしてもその時間帯に来てしまうものを積み上げていきます。実際の過ごし方は、店、地域、立場、契約、その人の担当客の数によって大きく違います。
なぜ「出勤前」に予定が集まるのか——四つの押し出し
① 開店してからでは間に合わないものが、全部そこへ寄る
ホストクラブは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)第2条第1項第1号の営業に当たると整理されており、同法第13条第1項により、原則として午前0時から午前6時までは営業できません(都道府県の条例による例外があります)。営業できる帯が固定されているということは、開店時刻も閉店時刻も自由には動かせないということです。
その結果、開店してからでは間に合わない作業は、すべて開店前に押し出されます。身支度、店内の準備、その日の共有事項の確認。これは夜の店に限った話ではなく、開店時刻のある業種に共通する構造です。違いは、その「開店前」が世間の夕方から夜にかけての時間帯に来ることです。
② 見た目に関わる準備は、店の外で起きやすい
接客の場に立つ以上、服装や髪型は仕事の一部として扱われます。そして、その整えは店内で完結するとは限らず、美容室など外部のサービスを使えば、当然ながら店の外で、しかも出勤前に行われます。
ここが後半の論点に直結します。同じ「仕事のための準備」でも、店の中で行ったのか外で行ったのかによって、労働時間としての評価も、費用の負担の議論も変わってくるからです。費目そのものの分け方や金額の考え方は夜職の衣装・美容代で扱っています。
③ 来店の約束は、営業時間外にしか取れない
来店してもらう約束は、営業中に卓についている間には取り切れません。連絡や予定調整は、必然的に営業時間の外——つまり出勤前や退勤後に寄ります。
この「店の外での関係づくり」は、規制の議論でも論点になりました。警察庁の悪質ホストクラブ対策検討会の報告書には、若い女性がSNSやマッチングアプリをきっかけに来店することについて、「店が関与しない一個人としてのホストとの出会いの場である」とされる一方で、それが多額の債務を負わせるための予備的な行為とも言えるのではないか、という委員の意見が記録されています。出勤前の連絡は、私生活のようでいて、規制の議論の対象にもなっている領域だということです。
④ 同伴は、定義上、開店前にしか成立しない
店外で合流して一緒に入店する形をとる以上、その時間は開店前に置かれます。同伴の仕組みとお金の流れは同伴とは?で詳しく扱っているので、ここでは「出勤前という枠を占める要素のひとつ」として位置づけるにとどめます。
この四つを、三つの層に切り直す
出勤前の数時間を扱いやすくするために、次の三層に分けて考えてみてください。
- 完全な私生活の層:睡眠、食事、家事、自分のための買い物や運動。仕事と無関係で、誰からも指示されていない時間
- 自分の裁量で行う準備の層:やらなければ困るが、やり方も時間もタイミングも自分で決めている準備
- 店の指示で動く層:やることも、時刻も、場所も、店から指定されている時間
法律の議論で結論が分かれるのは、ほぼ2と3の境目です。 以下は、この境目をどう判定するかという話になります。
「準備の時間は労働時間か」を判定する物差し
最高裁は「契約書にどう書いてあるか」では決めないと言っている
労働基準法上の労働時間とは何かについて、最高裁は三菱重工業長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決)で、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうとし、その該当性は「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるもの」であって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと判示しました。
そのうえで、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、所定労働時間外に行うものとされている場合であっても、特段の事情のない限り指揮命令下に置かれていたと評価できる、としています。
ここから読み取れることは二つあります。第一に、契約書や店のルールに「準備時間は無給」と書いてあっても、それだけで結論は決まらない。第二に、判断の軸は「義務づけられていたか、あるいはそうせざるを得なかったか」であり、明示的な命令がなくても、事実上そうするしかない状況なら評価は変わりうる、ということです。
厚生労働省のガイドラインは、三つの類型を挙げている
行政側の整理も確認しておきます。厚生労働省が平成29年1月20日に策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、労働時間を使用者の指揮命令下に置かれている時間とし、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる、としています。そのうえで、次の時間は労働時間として扱わなければならない、と明記しています。
- ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
- イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
- ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
なお、このガイドラインの対象労働者は、労働基準法第41条に定める者およびみなし労働時間制が適用される労働者を除く全ての者とされています。
出勤前の時間に当てはめると、開店前のミーティングや店内清掃、指定された服装への着替えは、アに近い形になります。「まだ営業が始まっていないから無給」という説明は、この整理とは噛み合いません。
「店の外での準備」は、同じようには扱いにくい
一方で、アの類型が事業場内において行った時間と書かれている点は見落とせません。判例も、事業所内で行うことを義務づけられた準備行為の事案でした。つまり、自宅での身支度や、自分で選んだ美容室での準備は、そのままではこの類型に乗りません。
とはいえ、労働時間の定義そのものが場所で限定されているわけではありません。指揮命令下と評価できるかどうかが軸ですから、店の外での行為でも、時刻・場所・内容が細かく指定され、自由な利用が保障されていないような実態があれば、議論の余地は残ります。ただし、店の中で義務づけられた準備に比べると、認められるためのハードルは高くなると考えておくのが現実的です。
移動の時間はどう見るか
移動時間について、厚生労働省の通達(訪問介護労働者の法定労働条件の確保について。平成16年8月27日基発第0827001号)は、移動時間は「使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当する」としています。同じ通達は、待機時間についても「使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当する」と整理しています。
これは訪問介護を念頭に置いた通達ですが、示されている物差しは共通です。裏を返せば、自宅から店へ向かう通常の通勤は、業務としての移動を命じられたものではないため、原則として労働時間には当たりません。 出勤前の移動が労働時間の議論に乗るとすれば、それは「通勤」ではなく「命じられた業務としての移動」と評価できる場合に限られます。
「呼ばれたら出る」状態は、待機として議論になりうる
ガイドラインのイ(手待時間)は、出勤前の時間を考えるときに効いてきます。連絡がいつ来るか分からず、来たら即座に対応することを求められていて、そのために外出も休息も制約されている——という状態が実際にあるなら、それは形式上「出勤前」でも、労働から離れることが保障されていない時間に近づきます。
ただし、これも実態次第です。連絡が来るかもしれない、というだけでは足りず、即時対応を求められているか、自由利用が保障されているかが問われます。
契約が雇用でなければ、この物差しは直接には効かない
ここまでの話は、すべて労働基準法上の「労働者」に当たる人に適用されるルールです。労働基準法第9条は、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。
そして、警察庁の悪質ホストクラブ対策検討会の報告書には、ホストが「ホストクラブ等に雇用されているのではなく業務委託契約を締結している場合が多い」という指摘が記録されています。出勤前の準備が労働時間かどうかを議論する前に、そもそも自分がどちらの立場なのかを確認する必要があるということです。
労働者かどうかは、契約書の題名では決まらない
労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)は、労働者性を使用従属性の有無で判断するとし、次のような要素を挙げています。
- 諾否の自由:仕事の依頼や業務従事の指示等に対して拒否する自由がない場合は、指揮監督関係を推認させる重要な要素になる
- 業務遂行上の指揮監督:業務の内容および遂行方法について具体的な指揮命令を受けていることは、指揮監督関係の基本的かつ重要な要素
- 拘束性:勤務場所および勤務時間が指定され、管理されていることは、指揮監督関係の基本的な要素
- 代替性:労務提供に代替性が認められている場合には、指揮監督関係を否定する要素のひとつ
- 報酬の労務対償性:報酬が時間給を基礎として計算されるなど、労働の結果による較差が少ない場合は使用従属性を補強する
これに加えて、事業者性の有無、専属性の程度などが補強要素とされています。「出勤時刻が決まっていて、開店前のミーティングに出ることが義務づけられていて、断る自由がない」という実態は、拘束性や諾否の自由の面で、労働者性を推認させる方向に働く要素です。もっとも、判断は要素の総合考慮であり、一つの事情だけで決まるものではありません。
業務委託なら、書面で条件が示されているはず
雇用ではなく業務委託として働いている場合、労働基準法の労働時間・割増賃金の規定は直接には適用されません。ただし、令和6年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)により、業務委託をした発注事業者には、給付の内容、報酬の額、支払期日などの取引条件を、書面または電磁的方法で明示する義務があります。報酬の支払期日は、給付を受領した日から60日以内のできる限り早い日に設定する必要があります。
出勤前の準備や連絡が「給付の内容」に含まれているのか、含まれていないのか。 業務委託であればここが出発点です。書面に何も書かれていないのに準備を求められている、という状態は、まずその点を確認するところから始まります。
出勤前の時間に「値段」をつけると、何が見えるか
労働時間に入るなら、最低賃金の計算にも入る
準備時間が労働時間として評価される場合、その時間は最低賃金の計算にも、割増賃金の計算にも入ります。 労働時間の原則は休憩時間を除き1週40時間・1日8時間(労働基準法第32条)で、これを超えれば2割5分以上の割増賃金が必要になります(同第37条第1項)。
最低賃金の水準も動いています。厚生労働省の公表によれば、中央最低賃金審議会は令和8年7月28日に令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申し、目安どおりに改定された場合の全国加重平均は現在の1,121円から1,176円になるとされています(実際の額と発効日は都道府県ごとに決まります)。
これを使って、あくまで仮の計算をしてみます。1日2時間の準備が労働時間に当たると評価され、それが月20日あるとすると、月40時間です。40時間×1,121円=44,840円。年に直せば50万円を超えます。金額そのものより、「準備時間」という言葉ひとつでこれだけの幅が動くという点が重要です。
出勤前の準備に、深夜割増は基本的につかない
労働基準法第37条第4項の深夜割増(2割5分以上)は、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が定める地域・期間は午後11時から午前6時まで)の労働が対象です。出勤前の準備の多くはこれより前の時間帯に行われるため、その時間帯だけを見れば深夜割増の対象にはなりません。
ただし、準備時間が労働時間に算入されれば、その分だけ1日の労働時間の起点が前に動きます。 結果として1日8時間を超える部分が増え、時間外割増の対象時間が増える、という効き方をします。深夜割増と時間外割増は別々の規定なので、両方が重なる時間帯には両方がかかります。
「時間を算定し難い」とされる場合
事業場外で業務に従事し、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす制度があります(労働基準法第38条の2)。業務の遂行に通常所定労働時間を超える労働が必要な場合は、その業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされ、労使協定で時間を定めることもできます。
注意したいのは、「事業場の外だから自動的にみなしになる」わけではないことです。適用の前提は「労働時間を算定し難いとき」であり、連絡手段によって随時具体的な指示を受けているような状態では、算定し難いとはいえないという整理が一般的です。この点は個別の事情で判断が分かれるところなので、争いがあれば労働基準監督署に相談するのが確実です。
今、時間がある人が並んでいます
今すぐ話し相手がほしいなら、待つ必要はありません。LOVETOK NOW は 「今、話せます」と出している人だけが並ぶ場所です。気になる人へその場で声をかけられます。
無料で新規会員登録18歳以上・年齢確認済みの方のみ利用できます
出勤前に出ていくお金は、誰が負担するのか
出勤前の時間には、時間だけでなくお金も出ていきます。身支度、移動、同伴の飲食。その負担のルールを確認します。
「負担させる定め」は、あらかじめ示されていなければならない
労働基準法施行規則第5条は、労働条件として明示すべき事項に「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項」を挙げています。また労働基準法第89条は、就業規則の記載事項として「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」、および「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」を挙げています。
つまり、働く側に費用を負担させる仕組みがあるなら、それはあらかじめ示されているべきものであって、後から口頭で追加されるような性質のものではありません。「聞いていなかった負担が発生している」という状況は、まずこの明示のルールに照らして確認できます。
給料から引くには根拠が要る
労働基準法第24条第1項は、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めています。控除が許されるのは、法令に別段の定めがある場合か、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)との書面による協定がある場合です。
また、同法第16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。「遅刻したら一律◯円」「準備を怠ったら◯円」といった、あらかじめ額を決めた罰金の取り決めは、この規定に触れる可能性があります。 遅れた時間分の賃金が支払われない(ノーワーク・ノーペイ)ことと、時間に対応しない定額のペナルティを課すことは、法律上まったく別の話です。
出勤にかかる交通費
通勤にかかる費用について、法律が支給を義務づける一般的な規定はありません。支給するかどうか、いくら支給するかは、契約や就業規則の定めによります。
支給される場合の税の扱いは決まっています。国税庁によれば、電車やバスなどの交通機関を利用して通勤する人の通勤手当は、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額が非課税とされ、1か月あたり15万円が上限です。これを超える部分は給与として課税されます。
なお、帰りの交通費については別の論点があります。国税庁のタックスアンサーは、バーやキャバレー等の経営者が接客に従事する人に支払う報酬・料金の源泉徴収について説明しており(税率10.21%、控除額は5,000円×計算期間の日数)、この報酬・料金に含まれるものとして、報奨金や衣装代とともに深夜に帰宅するためのタクシー代を挙げています。行きと帰りで扱いが変わりうる、という点は押さえておく価値があります。
かかった費用は経費になるのか
これは、給与としてもらっているか、報酬としてもらっているかで入口が変わります。
給与としてもらっている場合、原則として個別の必要経費を差し引くことはできません。例外が特定支出控除で、国税庁によれば、通勤費、職務上の旅費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等。合計65万円が上限)が対象です。その年の特定支出の額の合計額が給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときに、超える部分を差し引けます。給与の支払者等による証明が必要という点が実務上の壁になります。
報酬(事業所得等)としてもらっている場合は、必要経費の話になります。国税庁は、必要経費は総収入金額を得るために直接要した費用や、その年に生じた販売費・一般管理費などであり、その年の12月31日までに債務が確定していることが必要だと説明しています。生活費と混ざる支出(家事関連費)については、業務の遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分に限って必要経費になります。出勤前の身支度は生活と仕事の境目にある支出なので、この区分の考え方が正面から効いてきます。
費目の切り分けや記録の残し方は夜職の衣装・美容代で詳しく扱っています。判断に迷う場合は税務署や税理士に確認してください。
記録がないと、どちらの主張も立たない
出勤前の時間をめぐる話は、後から証明しにくいという共通の弱点があります。
労働安全衛生法第66条の8の3は、事業者に対し、面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと定めています。把握は事業者側の義務ですが、現実には、出勤前の準備が記録に残っていないことは珍しくありません。
自分の側でできることとして、次のような記録が考えられます。
- 店に入った時刻と、実際に接客が始まった時刻を、それぞれ分けて残す
- 出勤前のミーティングや準備を指示された連絡(メッセージ等)を消さずに保存する
- 指定された場所・時刻がある場合は、その指定そのものを記録に残す
- 費用が発生したら領収書を残し、何のための支出かをメモしておく
いずれも特別なことではありませんが、あるかないかで話の進み方が変わります。
深夜に働く人向けの健康診断は、制度として用意されている
出勤前の時間の使い方は、睡眠の取り方と直結します。ここには制度の裏づけがあります。
労働安全衛生規則第45条は、事業者に対し、同規則第13条第1項第3号に掲げる業務(深夜業を含む業務が含まれます)に常時従事する労働者について、当該業務への配置替えの際および6か月以内ごとに1回、定期に健康診断を行わなければならないと定めています。通常の定期健康診断が年1回であるのに対し、頻度が上がる形です。
さらに、労働安全衛生法第66条の2は、午後10時から午前5時までの深夜業に従事する労働者のうち一定の要件に該当する者が、自ら受けた健康診断の結果を証明する書面を事業者に提出することができると定めています。その要件は労働安全衛生規則第50条の2により、「常時使用され、自ら受けた健康診断を受けた日前6月間を平均して1月当たり4回以上深夜業に従事したこと」とされています。
これらも労働者を対象とした制度ですが、深夜に働くことが健康管理上の特別な扱いを要すると法令が認めているという事実自体は、契約形態にかかわらず知っておいて損はありません。体調の変化を感じたら医療機関に相談してください。
店の外での行動には、風営法の線引きもある
出勤前は店の外で過ごす時間なので、風営法の枠も確認しておきます。路上で通行人に声をかける客引きは、法第22条第1項第1号で明確に禁止されています。従業者の客引き行為を理由に店側が営業停止を命じられた例も公表されており、店の外での行動が店の営業そのものに跳ね返ることがあります。
また、令和7年に施行された改正風営法では、接待飲食等営業に遵守事項が加わり、料金についての虚偽・誤認させる説明や、恋愛感情等に乗じて困惑させて飲食等をさせる行為などが禁じられました。警察庁のページによれば、改正法は令和7年11月28日までに全ての規定が施行されています。改正の中身はホストの1日や本営とは?で扱っているので、ここでは「出勤前の連絡も、店の営業に関する行為として評価されうる」という点だけ確認しておきます。
よくある質問
Q. 開店前のミーティングや掃除の時間は、給料が出ないのが普通ですか。 「普通かどうか」ではなく、労働者として働いているかどうかで判断が変わります。労働者であれば、厚生労働省のガイドラインは、使用者の指示による準備行為や後始末を事業場内で行った時間を労働時間として扱わなければならないとしています。最高裁も、事業所内で行うことを義務づけられ、または余儀なくされた準備行為は、所定労働時間外に行うものとされていても、特段の事情のない限り指揮命令下にあると評価できるとしています。「営業前だから無給」という説明だけでは根拠になりません。業務委託契約の場合は、労働基準法ではなく契約の内容の問題になります。
Q. 自宅でのヘアセットや着替えの時間も、労働時間になりますか。 そのままでは認められにくい、というのが率直な答えです。ガイドラインが労働時間として扱うべきとする準備行為の類型は「事業場内において行った時間」とされており、判例の事案も事業所内での準備でした。ただし労働時間の定義自体が場所で限定されているわけではないので、時刻や場所や方法が細かく指定され、自由な利用が保障されていないような実態があれば、議論の余地は残ります。個別の判断は労働基準監督署などに相談してください。
Q. 出勤前に店から呼び出されて対応した時間はどうなりますか。 労働者であれば、使用者の指示により業務に従事した時間ですから、労働時間として扱われるのが原則です。また、呼び出しがいつ来るか分からず、来たら即時に対応することを求められていて、労働から離れることが保障されていない状態で待っていた時間は、ガイドラインでいう「手待時間」として労働時間に当たりうると整理されています。実態がどうであったかが決め手になります。
Q. 通勤の時間は労働時間に入りますか。交通費は出ますか。 通常の通勤は、業務としての移動を命じられたものではないため、原則として労働時間には当たりません。厚生労働省の通達は、業務に従事するために必要な移動を命じられ、その時間の自由利用が保障されていない場合に移動時間が労働時間に当たる、という物差しを示しています。交通費については、支給を義務づける一般的な規定はなく、契約や就業規則の定めによります。支給される場合、電車・バス通勤の通勤手当は1か月15万円までが非課税です。
Q. 出勤前の準備にかかったお金は、経費にできますか。 もらい方によります。給与としてもらっている場合は原則として個別の経費を差し引けず、特定支出控除という例外がありますが、給与所得控除額の2分の1を超える部分に限られ、支払者等の証明も必要です。報酬としてもらっている場合は必要経費の問題になり、生活と混ざる支出は、業務の遂行上直接必要だったことが明らかに区分できる部分に限られます。詳しくは夜職の衣装・美容代を参照し、最終的な判断は税務署や税理士に確認してください。
Q. 遅刻したら罰金、と言われています。問題はありませんか。 労働者として働いている場合、労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり損害賠償額を予定する契約を禁じています。あらかじめ額を決めた罰金の取り決めは、この規定に触れる可能性があります。また賃金からの控除は、法令の定めか労使協定がなければ認められません(同第24条)。遅れた時間分の賃金が支払われないことと、定額のペナルティを課されることは別の問題です。業務委託の場合は労働基準法の適用がないため、契約書の記載と、フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づいて明示された条件を確認してください。
Q. 出勤前の時間が長すぎて生活が回りません。どこに相談できますか。 働き方や契約、賃金の未払いについては、労働基準監督署や都道府県労働局の総合労働相談コーナーが窓口です。厚生労働省は平日夜間や土日にも相談できる労働条件相談ほっとラインを設けています。体調面の不安は医療機関へ。深夜業に常時従事する労働者には6か月以内ごとの健康診断の仕組みがあり、一定の要件を満たす場合は自分で受けた健康診断の結果を事業者に提出することもできます。料金や債務のトラブルは消費者ホットライン「188」、身の危険を感じる場合は警察相談専用電話「♯9110」が公的な窓口です。
Q. 業務委託だと、準備の時間は完全に自己負担ということですか。 自動的にそうなるわけではありません。まず、契約の名称が業務委託でも、実態が労働者であれば労働基準法が適用されます。判断は、仕事の依頼を断る自由があるか、業務の遂行に具体的な指揮命令があるか、勤務場所や時間が指定・管理されているかなどの要素を総合して行われます。業務委託として扱われる場合でも、フリーランス・事業者間取引適正化等法により、給付の内容や報酬の額などの取引条件は書面等で明示されるべきものです。準備を求められているのに書面に何も書かれていない、という状態は確認の対象になります。
まとめ
- 出勤前に予定が集まるのは、営業できる時間帯が法律で区切られていて、開店してからでは間に合わないものがすべて前へ押し出されるから
- 出勤前の時間は「私生活」「自分の裁量の準備」「店の指示で動く時間」の三層に分けて考えると整理しやすい。争いになるのは後ろの二つの境目
- 労働時間かどうかは、契約書や就業規則の定めではなく、指揮命令下に置かれていたと客観的に評価できるかで決まる(最高裁平成12年3月9日判決)
- 厚生労働省のガイドラインは、事業場内での準備行為・後始末、手待時間、義務づけられた研修等を労働時間として扱うべきとしている。開店前のミーティングや店内清掃はこの整理に近い
- 一方、自宅や外部での身支度は「事業場内」の類型に乗らないため、労働時間と認められるハードルは高くなる
- 通常の通勤は原則として労働時間ではない。業務としての移動を命じられ、自由利用が保障されていない場合に議論になる
- これらはすべて労働者に適用されるルール。業務委託の場合は契約の内容が出発点になり、フリーランス・事業者間取引適正化等法による条件の明示が手がかりになる
- 費用を負担させる定めは、労働条件の明示や就業規則の記載事項に含まれる。賃金からの控除には根拠が必要で、定額の罰金の取り決めは労働基準法第16条に触れる可能性がある
- 経費として差し引けるかは、給与か報酬かで入口が変わる。生活と混ざる支出は「業務の遂行上直接必要」と区分できる部分に限られる
- 深夜業に常時従事する労働者には、6か月以内ごとの健康診断や、自発的健康診断の結果を提出できる仕組みが用意されている
出勤前の時間の使い方は、店がどの街にあるか、通勤にどれくらいかかるか、開店が何時かによっても変わります。街ごとの様子を知りたい方は、市区町村ごとにまとめた出会いガイドもあわせてご覧ください。
参考情報
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html
- 大阪労働局「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(本文) https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/hourei_seido/jikan2/kokuji/kokuji2.html
- 厚生労働省「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日基発第0827001号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74920.html
- 厚生労働省労働基準局「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」 https://www.mhlw.go.jp/content/001462701.pdf
- 労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日) https://www.roudoumondai.com/administrative-notice/s601219.html
- 全国労働基準関係団体連合会「三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・会社側上告)事件」(最高裁平成12年3月9日判決) https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07520.html
- e-Gov法令検索「労働基準法」第9条・第16条・第24条・第37条・第38条の2・第89条 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」第5条 https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第66条の2・第66条の8の3 https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」第13条・第45条・第50条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法 パンフレット」 https://www.jftc.go.jp/file/flpamph.pdf
- 警察庁「ホストクラブ等の売掛金等に起因する事件等について」 https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/hostclubto/hostclubto.html
- 国税庁 タックスアンサー No.1415「給与所得者の特定支出控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2210「やさしい必要経費の知識」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2582「電車・バス通勤者の通勤手当」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2582.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2807「ホステス等に支払う報酬・料金」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2807.htm
本記事は一般的な情報の整理であり、個別の店舗の運営方法や、個別の事案に対する法的・税務的・医学的な判断を示すものではありません。労働時間に当たるかどうかは実態に即して個別に判断され、契約形態によって適用される法律も変わります。法令や最低賃金額は改正・改定されることがあります。実際の取扱いは、労働基準監督署、都道府県労働局、税務署などの公的機関でご確認ください。料金や債務のトラブルは消費者ホットライン「188」、緊急を要しない警察への相談は「♯9110」が窓口です。

