結論から書きます。ホストのスーツは「制服」ではありません。法令にホストの服装を定めた規定はなく、税法が非課税で扱う「制服」の要件にも背広は当たらないと国税庁が明言しています。それでもスーツを着る人が多いのは、ホストクラブが「社交ダンスのホール」から始まった業態であること、そして料金が高い店ほど服装で店の格を見せてきたという接客業の慣習が残っているからです。
この記事で主役にしたいのは、その「制服ではないのに揃っている」という状態そのものです。制服は会社が支給して会社が費用を持つのが原則的な形ですが、スーツは私服としても着られてしまうため、税法上も労働法上も「支給される制服」とは別の扱いになります。 揃っているのに制服ではない。この段差が、費用を誰が持つのか、着替えの時間は労働時間なのか、店はどこまで服装を指示できるのか、という実務上の論点をすべて生んでいます。
もうひとつ、この業界特有のねじれがあります。高級レストランやホテルのバーでは客の側にドレスコードがあり、働く側は支給された制服を着ます。ホストクラブはその逆で、客の服装はほぼ自由、働く側に服装のルールがある。 ホストクラブの案内ページは、客の服装について「何を着てくるべきかを具体的に指定している店はほとんどありません」と書きます。この非対称が、ホストのスーツを理解する最短の補助線になります。
なお、衣装や美容にいくらかかるかという費目の話は夜職の衣装・美容代の記事にまとめてあります。この記事では金額ではなく、「なぜスーツという服装が選ばれてきたのか」と「服装を店が決めるとどうなるのか」に絞ります。
この記事で分かること
- 「ホスト=スーツ」がいまどこまで当てはまるのか(スーツ基本の店と私服の店が並存している事実)
- ホストクラブが社交ダンスのホールから始まったという出自と、洋装が「格」の記号になった経緯
- スーツが接客業で選ばれ続けてきた三つの機能(等級づけ・座り姿・統一と個体差の両立)
- 税法が定義する「制服」の中身と、国税庁が背広をどう扱っているか
- 服装を店が指定するときに労働法が見る五つのポイント(規定の合理性・費用負担・天引き・違約金・着替え時間)
- 私服の店が増えた理由と、私服が「上限のない服装規定」になりうること
- 黒服・ホール・ホテルなど他の業態と、ホストの服装がどこで分かれるのか
法令部分はe-Gov法令検索の条文、厚生労働省と国税庁の公表資料で確認しています。業界の慣習部分は求人メディアや店舗の公開ページを複数読み比べた整理であり、店舗・地域・年代によって実際の運用は大きく異なります。 一般的な情報であり、個別の契約や税務の結論は事情によって変わります。
「ホスト=スーツ」は、いまどこまで本当か
スーツの店と私服の店が並存している
まず現在地から確認します。「ホストはスーツ」という像は、いまは半分だけ当たっています。
ホスト求人メディアの服装解説は「勤務時も私服OKのホストクラブが増えてきている」としつつ、「スーツ着用を基本ルールにしているお店も多い」と書き、店舗やコンセプトでスタイルが分かれると整理しています。別のホスト求人サイトは「店舗によってはスーツ指定のホストクラブもありますが、最近は"私服勤務OK"の店舗がほとんど」と、より私服寄りの書き方をしています。
つまり業界メディアの間でも、どちらが多数派かの評価は割れています。 一致しているのは「店による」という一点だけです。ここを「ホスト業界は全部スーツ」あるいは「もう誰もスーツを着ていない」と丸めると、実態から離れます。
ルールが「段階」になっている店がある
服装が店の中でどう扱われているかを示す、分かりやすい記述があります。ホスト求人メディアの服装記事は、「スーツを基本としつつ既定の売上を超えると私服OKとなるお店もある」と書いています。
これは服装が単なる身だしなみではなく、店内の段階を示す道具として使われていることを意味します。売上という数字と服装の自由度が結びついているなら、その店では服装が「まだ新人か、もう任せられる人か」を店内外に示す記号になっているわけです。指名の仕組みそのものは本指名の記事で扱っていますが、服装のルールも同じ方向を向いていることになります。
客の側にはルールがほとんどない
一方で、客の服装は驚くほど自由です。
ホストクラブグループの公開ページは「ホストクラブには明確なドレスコードがあるわけではなく、普段通りの私服で来店される方が多くいらっしゃいます」と書き、大切なのは「自分がリラックスして楽しめるかどうか」だとしています。来店ガイドを載せているメディアも、「ドレスコードあり」と掲げる店は存在するものの「何を着てくるべきかを具体的に指定している店はほとんどありません」とし、避けたほうがよい例としてスウェット上下や部屋着とビーチサンダル・クロックス程度を挙げるにとどめています。
格式のある飲食店では客に装いを求め、働く側は支給された制服を着る。ホストクラブはこれが反転しています。 装いのコストと責任が、客ではなく働く側に寄っている。この構造は、後述する費用負担の話に直結します。
出自:ホストクラブは「踊る場所」から始まった
1965年、東京駅八重洲口の「ナイト東京」
なぜ最初からスーツだったのかを考えるには、業態の生まれ方を見るのが早道です。
東京新聞の記事(2021年7月13日)は、「ホストクラブのルーツは、一九六五年、東京駅八重洲口前にオープンした『ナイト東京』といわれる」と書き、女性客が店内で待機する男性をパートナーに指名した、と説明しています。つまり最初のホストクラブ的な場は、会話とグラスの前に「社交ダンスを踊る場所」でした。 同記事が取材した2021年の歌舞伎町の店でも、ダンスフロアで男性スタッフはスーツ姿だったと描写されています。
社交ダンスのフロアは、そもそも洋装の場です。踊る相手に手を差し出し、フロアの中央で人に見られる。その所作を前提にした服が、たまたま日本に入っていた男性の洋装=背広だった。 ホストの服装がスーツから始まったのは、思想ではなく場の作りの帰結だった、と読むのが自然です。
洋装が「格の順番」を持ち込んだ
もう一段さかのぼると、日本で洋服が「格」を示す道具になった経緯があります。
アジア歴史資料センターの展示解説によれば、男性用洋服は幕末の軍隊で使われていましたが、明治初期に官僚の制服が洋装になったことで民間への普及が進みました。明治5年(1872年)の太政官布告第339号では、文官の礼装である大礼服の体裁が初めて定められ、帽子・上衣・下衣の生地や寸法、飾章の入れ方、ボタンの付け方まで細かく示され、勅任官・奏任官・判任官という位階によって仕様が違ったとされています。
ここで重要なのは、洋装が入ってきたときに「服の仕様の細かな違いが身分の違いを表す」という考え方も一緒に入ってきたことです。生地、丈、ボタン、装飾。同じ形に見えて等級が違う、という読み方が定着していきました。夜の店が服装で店の格を示すやり方は、この延長線上にあります。
「誰がスーツを正装にしたか」は特定できない
なお、ホスト業界の様式を特定の人物の発案とする語りはよく見かけますが、裏づけには注意が必要です。歌舞伎町のホストクラブ史をまとめたメディアは、「ホストの正装としてのスーツやシャンパンタワー、シャンパンコールといった『いまのホストらしさ』が愛田武の発案だとする説もよく語られますが、一次資料で明確に裏づけられているわけではありません」と、自ら留保を付けています。同メディアは1971年の「クラブ愛」開業を歌舞伎町の起点として扱っていますが、服装の様式を誰かの発明として説明する記述は、現時点で確認できる一次資料がありません。 この記事でもそこは断定しません。
スーツが選ばれてきた三つの機能
出自だけでは、60年近く続いた理由の説明になりません。スーツが接客の現場で果たしてきた機能を三つに分けて整理します。
機能1:価格帯を、開店前から目に見える形にする
夜の店の会計は、席料・指名料・ボトル・サービス料の積み上がりで決まります(仕組みはホストクラブの料金システムの記事に分解してあります)。ところが客は、その積み上がりを飲み終わるまで体感できません。
そこで、価格帯を先に伝える役割を負うのが空間と人の見た目です。 内装、グラス、照明、そして従業員の服装。スーツは、この中でもっとも安く、もっとも早く「ここはそういう店です」と伝えられる装置でした。ホストのスーツ選びを解説する求人サイトが、初心者向けの色として「ネイビーかブラックの二択でOK」と書き、どんな髪色・顔立ちにも馴染む安心カラーだと説明しているのも、個性より先に「場の格を外さないこと」が求められているからだと読めます。
機能2:この仕事は「座った姿」で評価される
意外に見落とされがちなのが、姿勢の問題です。
ホスト向けのスーツ解説記事は、選ぶときの最重要点をサイズ感だとしたうえで、「座った状態でキレイに見えるスーツ」を選ぶよう勧め、試着時には太もものもたつき、ジャケットの肩の浮き、腰回りのシワを確認すべきだと具体的に書いています。
接客の大半がソファに座った状態で進む仕事なので、評価されるのは立ち姿ではなく座り姿です。 上半身が正面から至近距離で見られ続け、しかも卓上のグラスや照明の反射の中に置かれる。テーラードのジャケットは、肩と胸の面を作って上半身の輪郭を整える衣服なので、この見られ方と相性が良い。スーツが残ってきた実務的な理由のひとつは、ここにあります。
機能3:統一しながら、個体差を残せる
三つ目が、この業態でいちばん効いている性質です。
完全な制服にしてしまうと、全員が同じに見えます。ホストクラブは指名で売上が動く商売なので、「誰を選ぶか」の手がかりが見た目から消えるのは困ります。 かといって全員がばらばらの格好をすると、店としての格が伝わらない。
スーツはこの両方を満たします。形式は共通していて、色・生地・シャツ・ネクタイ・靴・時計の選択で差が出る。制服のように「揃っている」ように見えて、実際には一人ひとりの選択が残っている。 ホストの私服について書かれた求人記事が、私服店では「ファッションは重要な自己プロデュース要素」になり「売れているホストほど私服にも強いこだわりを持っている」と説明しているのは、スーツが担っていた個体差の部分だけを取り出したものだと言えます。
法律から見ると、ホストのスーツは「制服」ではない
ここからが、この記事のもう一つの柱です。「スーツを着る」ことと「制服を着る」ことは、法律の世界では別物として扱われます。
税法の「制服」は、かなり狭い
まず所得税法です。所得税法第9条第1項第6号を受けた所得税法施行令第21条は、非課税とされるものとして次を挙げています。
- 第2号「給与所得を有する者でその職務の性質上制服を着用すべき者がその使用者から支給される制服その他の身回品」
- 第3号「前号に規定する者がその使用者から同号に規定する制服その他の身回品の貸与を受けることによる利益」
さらに所得税基本通達9-8は、「専ら勤務場所のみにおいて着用する事務服、作業服等については、令第21条第2号及び第3号に規定する制服に準じて取り扱って差し支えない」として、範囲をやや広げています。
国税庁は「背広は制服に当たらない」と書いている
そのうえで、この記事のテーマに真正面から答えている資料があります。国税庁の質疑応答事例「背広の支給による経済的利益」です。
照会は「背広など、私服としても着用できるものを制服として支給する場合、経済的利益の課税はどうなりますか」というもので、回答要旨は「所得税法上非課税とされる制服等には当たらないことから、給与等として源泉徴収をする必要があります」です。
同事例は、非課税の理由を「制服等の支給は、給与所得者の職務の遂行上欠くことのできないものであると同時に、その給付は使用者自身の業務上の必要性に基づくもの」であり「その費用を支出すべき主体は、使用者とみることができます」と説明します。そして法が想定する制服とは、警察職員、消防職員、刑務職員、税関職員、自衛官、鉄道職員などのように「組織上当然に制服の着用を義務付けられている一定の範囲の者」に支給されるものだと述べています。
事務服・作業服が非課税になるための条件として挙げられているのは、次の三つです。
- 専ら勤務する場所において通常の職務を行う上で着用するもので、私用には着用しない又は着用できないものであること
- 支給・貸与が、その職場に属する者の全員または一定の仕事に従事する者の全員を対象として行われること
- (更に厳格にいえば)それを着用する者がそれにより一見して特定の職員または特定雇用主の従業員であることが判別できるものであること
ホストのスーツは、この三つと相性が悪い
三つの条件をホストのスーツに当てはめると、噛み合わなさがはっきりします。
条件1は、そもそも「私服としても着られる」ことが前提のスーツでは満たしにくい。条件2は、店によっては満たしうる(全員スーツ)ものの、売上で私服が解禁される制度を採る店では崩れます。条件3にいたっては、ホストのスーツは「一見して同じ店の従業員だと分かること」ではなく、むしろ一人ひとりの違いが出ることを目的にしているので、方向が逆です。
結果として、店が背広を買い与えれば給与として扱われる可能性がある一方、本人が自分で買えばそれは私物になります。 制度としてはこうなっている、という事実だけをここでは押さえます(衣装費が経費になるかどうかは夜職の衣装・美容代の記事で扱っています)。この記事の注記どおり、国税庁の質疑応答事例は照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、具体的な取引では異なる結論になりうる点にも注意が必要です。
「黒服」の黒いスーツは、少しだけ制服に近い
対照的なのが、同じ夜の街の内勤スタッフです。
クラブ・ラウンジの男性スタッフを紹介するページは、「黒服」という呼び名の由来を「戦後のキャバレー・クラブ文化のなかで男性スタッフが黒のスーツで統一して働くスタイルが定着したことから、業界の共通語になりました」と説明しています。
黒で統一する目的には、客席にいる誰がスタッフなのかを一目で分からせるという実用が含まれます。これは先ほどの条件3、つまり「一見して従業員だと判別できる」に近い発想です。同じスーツでも、黒服の黒スーツは識別のための装いで、ホストのスーツは選ばれるための装いという違いがある。同じ建物の中で、服の役割が正反対になっているわけです。
服装を店が決めるとき、労働法はどこを見るか
「制服ではない」からといって、店が服装を指示できないわけではありません。ただし、指示の仕方によっては法律の枠に当たります。雇用されている場合を前提に、五つの論点を順に整理します。
1. 服装規定そのものは、合理的な範囲なら有効
服装や身だしなみの規律については、古い判例が基準を示しています。ハイヤー運転手のひげが争われたイースタン・エアポートモータース事件(東京地裁 昭和55年12月15日判決、判例時報991号107頁)です。国立国会図書館のレファレンス協同データベースにも、容姿・ファッションを巡る裁判例として登録されています。
判決は、「ハイヤー営業のように多分に人の心情に依存する要素が重要な意味をもつサービス提供を本旨とする業務においては、従業員の服装、みだしなみ、言行等が企業の信用、品格保持に深甚な関係を有するから、他の業種に比して一層の規制が課せられるのはやむを得ない」としつつ、就業規則の「ひげを剃る」という条項で規律されるのは不快感を伴う無精ひげや異様・奇異なひげに限られると限定的に解釈し、そこに当たらないひげまで剃らせる業務命令には従う義務がないとしました。
接客業だから服装への規制が強くなるのは仕方ない、しかし規制は必要かつ合理的な範囲にとどまる。 夜の店の服装ルールを考えるときも、この二段構えが出発点になります。
2. 費用を負担させるなら、「定め」と「明示」が要る
服装のルールが費用の話に変わる瞬間があります。ここで効いてくるのが労働基準法です。
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を義務づけ、その記載事項の第5号に「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」を挙げています。
同じ内容は採用時にも顔を出します。労働基準法施行規則第5条は、労働条件として明示すべき事項のひとつに「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項」を掲げています(定めをする場合に明示すべき事項です)。
つまり法律は、「働く人に費用を負担させること」自体を全面的に禁じてはいませんが、負担させるなら黙ってやるな、書いて示せ、という構えを取っています。 求人票や労働条件通知書に何も書かれていないのに、入店後に指定の店で指定の物を買わされる形になっているなら、その時点で確認すべき筋があるということです。
3. 給料から引くには、労使協定が要る
店が立て替えて給料から差し引く形にも枠があります。労働基準法第24条第1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めています。厚生労働省は賃金支払方法の説明で、税金や社会保険料など法令で定められたもの以外を賃金から控除するには、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との労使協定が必要だとしています。
スーツ代や衣装代を天引きするなら、その協定があるかどうかが最初の確認点になります。
4. 「辞めたら弁償」は禁止されている
服装がらみでときどき問題になるのが、支給や貸与に条件を付ける形です。ここには明確な禁止規定があります。労働基準法第16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。
「入店祝いでスーツを渡すが、○か月以内に辞めたら違約金として□万円」といった約束は、あらかじめ額を決めておく形であればこの条文に触れる可能性があります。実際に破損させた場合の損害賠償が一切できないという意味ではありませんが、辞めることに金額を紐づける取り決めは、法律が正面から否定している類型です。
5. 店で着替える時間は、労働時間になりうる
最後に、費用ではなく時間の話です。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)は、労働時間を「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義したうえで、労働時間として扱わなければならない例を挙げています。その筆頭が次です。
ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
同ガイドラインは、労働時間に当たるかどうかは「労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず」客観的に定まるとも書いています。
したがって、店に指定された服装へ店内で着替えることを義務づけられているなら、その時間の扱いは検討対象になります。 ホストの勤務時間の全体像はホストの1日の記事にありますが、出勤前後の時間をどう数えるかという論点は、服装の指定と地続きです。
なお以上は雇用契約(労働者)を前提にした話です。業務委託として働く形では労働基準法の適用関係が変わります。その場合の枠組みは夜職の衣装・美容代の記事で触れています。
6. 参考:風営法の側に服装の規定は見当たらない
ホストクラブは風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)第2条第1項第1号の営業に当たりますが、この法律が規制しているのは営業時間、構造・設備、料金表示、勧誘の方法などです。東京都の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(昭和59年東京都条例第128号)を通読しても、営業所の設置地域、営業時間、騒音・振動、営業者の遵守事項、年少者の立入りといった条が並ぶだけで、接客従業者の服装を定めた条文は見当たりません。
「ホストはスーツ」という像は、法令ではなく業界の慣習が作ったものだということです。
今、時間がある人が並んでいます
今すぐ話し相手がほしいなら、待つ必要はありません。LOVETOK NOW は 「今、話せます」と出している人だけが並ぶ場所です。気になる人へその場で声をかけられます。
無料で新規会員登録18歳以上・年齢確認済みの方のみ利用できます
私服の店が増えた理由と、そこで起きること
距離を縮めるための私服
私服化の理由として業界メディアが挙げるのは、ほぼ一点に集約されます。ホスト求人メディアは、カジュアルな私服が主流になった理由を「お客さまに親近感を抱かせやすく、指名や売上に繋がりやすいから」と説明しています。
スーツが担っていたのは「非日常」と「格」でした。それが強すぎると、今度は距離が生まれます。店が売りたいものが「格の高さ」から「その人に会いに行くこと」へ移れば、服装も動く。 別のホスト求人サイトが、私服について「第一印象が売上に直結する」ことに加え、InstagramやTikTokでの発信が営業手段になり、私服のセンスがフォロワーの増加や指名につながりうると書いているのも同じ方向です。画面越しに見られる時間が長くなれば、スーツ一択では持たない、ということでもあります。
私服は「自由」とは限らない
ただし、私服がルールの消滅を意味するとは限りません。
私服店向けの解説は、清潔感のあるきれいめの私服として、シンプルなシャツやジャケット、細身のパンツ、汚れていない革靴やスニーカーといった具体像を示しています。つまり「何でもいい」ではなく「察して合わせろ」に変わっているだけ、という側面があります。
スーツには天井がありました。上下・シャツ・ネクタイ・靴を揃えれば、とりあえず場に立てる。私服には天井がありません。明文の規定がないぶん、支出の上限も自分で引くしかない。 費用の設計としては、私服のほうが難しくなる場合があります。実際の月額の考え方は夜職の衣装・美容代の記事に譲りますが、ここで押さえたいのは「服装規定が消えたのではなく、書かれない形になった」という点です。
入り口の費用はどう案内されているか
始めるときの費用について、ホスト求人メディアは「安価な量販店のものを選んだとしても、セットで揃えるとなると2〜3万円の出費は避けられません」とし、オーダースーツやブランド品では「セットで10万円を超えてくるケース」もあると書いています。靴・ベルト・シャツ・ネクタイまで含めると「トータルで10万円程度を見込んでおくと安心」という書き方です。
同時に、「スーツの貸与制度や初月の寮費が無料になるなどのサポートがある場合もあります」とも書かれており、体験入店の段階でレンタルできる店があるとも紹介されています。
これらは求人メディアの記述であって、業界共通の相場ではありません。 店によって支給・貸与・自己負担のどれにもなり、同じ店でも時期や役職で変わります。確認すべきなのは金額の平均ではなく、自分が入る店で「誰が買い、誰が持ち、辞めたらどうなるのか」が書面にあるかどうかです。
他の業態と並べると、分かれ目が見える
同じ「人が接客する商売」でも、服装の扱い方は業態ごとに違います。整理すると、ホストの位置がはっきりします。
完全な制服の側
税法が想定する制服の例として国税庁が挙げていたのは、警察職員、消防職員、刑務職員、税関職員、自衛官、鉄道職員でした。これらに共通するのは、着ている人が誰であっても構わない、むしろ個人が消えることが目的だという点です。制服は組織を表し、個人を表しません。だから使用者が費用を持ち、非課税になります。
識別のための統一の側
夜の街でいえば、黒服がここに近い位置にいます。黒で揃える理由は「客席の中で従業員だと分かること」であって、個人を売るためではありません。識別が目的なので、統一が徹底されるほど機能が上がります。
個体差が売上になる側
ホストとキャストは反対側にいます。指名という仕組みがある以上、同じに見えることは商売上のマイナスです。ここでは服装が「店の格」と「個人の差」を同時に背負うことになり、その両立の解として長く使われてきたのがスーツでした。私服化は、両立の重心を「個人の差」側に寄せた選択だと読めます。
分かれ目は「誰の識別か」
こう並べると、線はきれいに引けます。
- 組織を識別させる服(制服)→ 支給・貸与が原則的な形、費用は使用者側、税法上も非課税
- 役割を識別させる服(黒服の黒スーツ)→ 統一が目的、店ごとの運用
- 個人を識別させる服(ホストのスーツ・私服)→ 差が出ることが目的、制服の要件からは外れる
ホストのスーツが「制服のようで制服ではない」のは、そもそも識別させたい対象が組織ではなく個人だからです。 そして識別させたい対象が個人である以上、費用と選択の責任も個人側に寄りやすい。慣習と法制度が、同じ方向を向いてしまっている構造だと言えます。
服装のルールを確認するときの見方
入店前や勤務中に確認しておくと後で困りにくい点を、法律の条文に対応させて並べます。
- 服装の指定は書面にあるか(就業規則・労働条件通知書。指定がある場合、その範囲と理由)
- 費用を誰が持つか(負担させる定めがあるなら労基法第89条第5号の記載事項、施行規則第5条の明示事項)
- 買う場所が指定されているか(指定がある場合、価格と支払方法をあわせて確認)
- 給料から引かれるか(引くなら労使協定の有無。労基法第24条)
- 貸与に条件が付いていないか(「短期で辞めたら○万円」は労基法第16条に触れうる)
- 着替えを店内で義務づけられているか(義務づけならその時間の扱い。厚労省ガイドライン)
- 求人票の記載と実際が一致しているか(「衣装貸与あり」の内容と範囲)
分からないまま進めないことが、いちばん確実な予防です。 労働条件の相談先としては、各都道府県労働局や労働基準監督署の総合労働相談コーナーがあります。
よくある質問
Q1. ホストは必ずスーツを着なければいけないのですか?
法律上の義務ではありません。風営法にも施行条例にも、接客従業者の服装を定めた規定は見当たりません。実際にはスーツ着用を基本ルールにする店と、私服勤務を認める店の両方があり、業界メディアの間でもどちらが多数派かの評価は分かれています。入る店の規定を個別に確認するしかない、というのが正確な答えです。
Q2. スーツは店が買ってくれるのが普通ですか?
「普通」と言える形はありません。求人メディアには、貸与制度がある店や体験入店でレンタルできる店の紹介がある一方、自分で用意する前提の記述もあります。法律の側から言えるのは、費用を働く人に負担させる定めを置くなら就業規則への記載(労基法第89条第5号)と採用時の明示(施行規則第5条)が求められるということです。書面で確認してください。
Q3. 店が買ったスーツを支給されると、税金はどうなりますか?
国税庁の質疑応答事例「背広の支給による経済的利益」は、背広など私服としても着用できるものを制服として支給する場合、所得税法上非課税とされる制服等には当たらないため、給与等として源泉徴収をする必要があると回答しています。支給の形や物によって扱いが変わりますので、具体的な処理は税務署や税理士に確認してください。
Q4. スーツ代を給料から天引きされています。問題はありませんか?
労働基準法第24条は賃金の全額払いを定めており、厚生労働省は、法令で定められたもの以外を賃金から控除するには労働者の過半数代表等との労使協定が必要だとしています。まず、その協定があるか、控除の内訳が給与明細で分かるかを確認してください。 説明が得られない場合は労働基準監督署の相談窓口が使えます。
Q5. 「1年以内に辞めたらスーツ代を返す」という約束は有効ですか?
労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり損害賠償額を予定したりする契約を禁じています。あらかじめ金額を決めて辞めることに紐づける形は、この条文に触れる可能性があります。 個別の有効性は契約の書き方と事情によりますので、疑問があれば労働相談窓口や弁護士に相談してください。
Q6. 出勤前に店で着替える時間は、労働時間に入りますか?
厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日策定)は、使用者の指示により就業を命じられた業務に必要な準備行為、その例として「着用を義務付けられた所定の服装への着替え等」を事業場内で行った時間は労働時間として扱わなければならないとしています。義務づけがあるかどうかが判断の軸で、就業規則の書き方ではなく実態で客観的に決まるとも書かれています。
Q7. 私服の店のほうが服装にお金がかからないのですか?
一概には言えません。スーツは揃える形が決まっているぶん上限が見えやすい一方、私服には決まった形がなく、求人記事も「売れているホストほど私服にこだわる」と書いています。明文のルールがない分、支出の線引きを自分でしなければならないという意味では、私服のほうが管理が難しい場合もあります。
Q8. 客としてホストクラブに行くとき、服装のルールはありますか?
店舗の公開ページや来店ガイドを見る限り、客に具体的な服装を指定している店はほとんどありません。ホストクラブグループの案内は「明確なドレスコードがあるわけではなく、普段通りの私服で来店される方が多い」としています。ただし「ドレスコードあり」と掲げる店も存在するため、気になる場合は事前に店へ確認するのが確実です。
まとめ
- ホストのスーツは制服ではない。法令にホストの服装を定めた規定はなく、風営法にも東京都の施行条例にも接客従業者の服装の条文は見当たらない
- 「ホスト=スーツ」は現在は半分だけ当たる。スーツ基本の店と私服の店が並存し、業界メディアの間でも多数派の評価は割れている
- 出自は社交ダンスのホール。ホストクラブのルーツとされる1965年開店の「ナイト東京」は、女性客が男性を指名して踊る場所だった
- 洋装が「格の順番」を持ち込んだ経緯もある。明治5年の太政官布告で文官の礼装が細かく定められ、官僚の洋装が民間への普及のきっかけになった
- スーツの機能は三つ。価格帯を先に伝えること、座り姿で評価される接客に合うこと、統一と個体差を同時に満たせること
- 税法の「制服」は狭い。国税庁は「背広など、私服としても着用できるものを制服として支給する場合」は非課税の制服に当たらず、給与として源泉徴収が必要だと回答している
- 非課税の要件は、私用に着用できないこと、全員が対象であること、一見して従業員と判別できること。ホストのスーツは三つとも相性が悪い
- 服装規定自体は、必要かつ合理的な範囲なら有効(イースタン・エアポートモータース事件)
- 費用を負担させるなら就業規則の記載(労基法第89条第5号)と採用時の明示(施行規則第5条)が要る
- 給料から引くには労使協定が要る(労基法第24条)。「辞めたら弁償」は違約金の予定として労基法第16条に触れうる
- 義務づけられた着替えを店内で行った時間は、労働時間として扱われうる(厚労省ガイドライン)
- 私服化の理由は親近感とSNS。ただし私服は「規定がない」のではなく「書かれない規定」になりやすい
- 業態の分かれ目は「何を識別させる服か」。組織なら制服、役割なら黒服、個人ならホストのスーツ・私服
服装は、その店が何を売っているかの表明でもあります。格を売る店はスーツで、距離の近さを売る店は私服で、それぞれの答えを出してきた。 どちらが正解ということではなく、自分が働く店・通う店がどちらを選んでいるのかを知っておくと、料金の見え方も、かかる費用の見通しも変わります。
夜の街の話をひととおり整理したうえで、日常のほうで人と話す場所を探すなら、LOVETOK NOWという選択肢もあります。いま話せる状態の人だけが一覧に並び、マッチングを待たずにその場でチャットを始められるサービスです(20歳以上・年齢確認あり)。地域ごとの話は出会いガイドにまとめています。
参考情報
- 背広の支給による経済的利益|国税庁 質疑応答事例(源泉所得税)
- 所得税基本通達 第9条関係(非課税所得)9-8|国税庁
- 所得税法|e-Gov法令検索(第9条第1項第6号)
- 所得税法施行令|e-Gov法令検索(第21条第2号・第3号)
- 労働基準法|e-Gov法令検索(第16条・第24条・第89条)
- 労働基準法施行規則|e-Gov法令検索(第5条)
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
- 同ガイドライン本文(PDF)|厚生労働省
- 賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。|厚生労働省
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(昭和59年東京都条例第128号)|東京都例規集
- 装いの文明開化 ~官僚から庶民まで~|アジア歴史資料センター(国立公文書館)
- 容姿・ファッションを巡る裁判例「イースタン・エアポートモータース事件」|レファレンス協同データベース(国立国会図書館)
- 服務規律として、ひげを禁止することは可能か?|弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所
- Shall We Dance? ホストクラブ原点回帰 歌舞伎町に大人の社交場|東京新聞デジタル(2021年7月13日)
- 歌舞伎町ホストクラブの歴史|ホスランク
- ホストクラブの服装は何が正解?初めてでも浮かない選び方|ホスランク
- ホストの服装って基本スーツ?定番の服装5選と失敗しない選び方も紹介|体入ホスパラNAVI
- ホストのスーツ選びと服装マナー|ホストル
- ホストは私服で差がつく!売れるホストのコーデ術とブランド選びのポイント|ホスリク
- ホストクラブ入店後の初期費用を解説!新人が知るべき出費のリアル|ホスリク
- ホストクラブにはどんな服装で行けばいい?|ATOM GROUP
- 黒服とは?クラブ・ラウンジの男性スタッフの仕事と実像|lounge-noir

