キャバ嬢はお客さんの名前をどう覚えている?記録が個人情報になる線引き

最終更新:2026-08-18

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結論から書きます。名前の覚え方そのものには、公的なルールも、業界で統一された作法もありません。一方で、覚えるために作られる記録——名刺、連絡先、来店の履歴——には、はっきりした法律の枠がかかります。個人情報保護法です。

そして、この記事で主役にしたいのはその先です。記録がある以上、「辞めるとき、それを持って出られるのか」という問題が必ず起きます。 ここで出てくるのは個人情報保護法だけではありません。不正競争防止法の「営業秘密」という別の枠組みが重なります。前者の罰則は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、後者は10年以下の拘禁刑または2,000万円以下の罰金(併科あり)。同じ一冊のノートに、二つの法律が違う角度からかかっています。

もうひとつ、実務でそのまま使える線引きがあります。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、「名刺入れに名刺を入れたままの状態」と「名刺の情報を表計算ソフトで入力・整理した状態」を、別のものとして扱っています。 前者は「個人情報データベース等に該当しない事例」、後者は「該当する事例」として並んでいます。覚えるための工夫が、どこから事業者としての義務に変わるのか。その段差が、公的な資料の中にはっきり書かれているわけです。

顧客ノートに何が書かれているのかという話はホストの会話術の記事で扱っています。この記事では、その記録の持ち主と行き先に絞ります。なお本文は法律の一般的な情報であり、個別の事案の結論は事情によって変わります。

この記事で分かること

  • 席で名前が出てくるまでに、いくつの経路があるのか(記憶・自分の記録・店の記録)
  • 名前は、それ単独で法律上の「個人情報」に当たること(法第2条第1項第1号)
  • 名刺をもらった時点で発生する義務と、しない義務(法第21条第2項・第4項第4号)
  • 「名刺入れのまま」と「整理した瞬間」の段差——ガイドラインが並べている二つの事例
  • 連絡してよい範囲は、取得の時点で決まっていること(法第17条・第18条・第19条・第20条)
  • ノートが個人の手元にある、という状態の扱い(安全管理措置と従業者の監督)
  • 辞めるときに持ち出せるのか——個人情報保護法第179条と、不正競争防止法第21条第2項
  • 持ち出しが「個人情報保護委員会に報告すべき事態」になる仕組み(規則第7条第3号)
  • 客の側が使える三つの請求(利用目的の通知・開示・利用停止等)と、相談窓口

「覚えている」は、ひとつの技能ではない

席で名前が出てくるまでの経路は複数ある

「よく覚えていますね」と言われる場面の裏側には、実際には複数の経路が並んでいます。ざっと分けると三つです。

一つめは、その人の頭の中の記憶です。 会話の中で聞いた名前を、そのまま保持している状態。二つめは、その人が自分で作った記録です。名刺、スマートフォンのメモ、紙のノート、連絡先アプリ。三つめは、店の側が持っている記録で、来店履歴や会計のデータ、予約の情報などがこれに当たります。

三つのうち、どれがどれくらい効いているかは、店によっても人によっても違います。「キャバクラでは一般にこうしている」と言える公的な調査は見当たりませんでした。 ですからこの記事では、どの経路が主流かという話には踏み込みません。重要なのは、二つめと三つめは記録であり、記録には法律がかかるという点です。

記憶の工夫として一般に言われること

記憶そのものについては、特殊な技術があるわけではありません。名前を覚えるコツとして一般に語られるのは、おおむね次のような、どの職業でも使われている工夫です。

  • 会話の中で相手の名前を実際に口に出して呼ぶ回数を増やす
  • 名前と結びつく手がかりを一つだけ決めておく(仕事、出身地、話題など)
  • その日のうちに書き留めて、翌日以降にもう一度見る

これらは記憶術の一般論であって、夜の店に固有の作法ではありません。 そして、三つめの「書き留める」を実行した瞬間から、話は記憶の話ではなくなります。書き留めた紙やアプリの中身が、法律上の「個人情報」だからです。

名前をめぐる非対称——片側だけが本名を出している

もうひとつ、この業種に固有の事情があります。店側は源氏名で働き、客は本名を名乗ることが多いという非対称です。名刺を差し出すのは、多くの場合に客の側になります。

働く側が本名を出さない仕組みと、その根拠になっている風営法上の記録(従業者名簿)についてはキャバクラの源氏名の記事で詳しく扱いました。ここで押さえておきたいのは、この非対称のせいで、名前という情報が一方向にだけ蓄積していくという点です。蓄積した側には、その分だけ管理の責任がついてきます。

名前は、それだけで「個人情報」に当たる

条文の定義を確認する

個人情報保護法第2条第1項第1号は、「個人情報」をこう定義しています。

当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(中略)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

定義の先頭に「氏名」が置かれています。 つまり、住所や電話番号とセットでなくても、氏名それ自体が個人情報です。「名前しか知らないから個人情報ではない」という整理は、条文の読み方として成り立ちません。

名刺を受け取ったとき、何が発生して何が発生しないのか

では、客から名刺を受け取った瞬間に、何が起きるのでしょうか。ここはガイドラインが具体的に書いています。

法第21条第2項は、契約書やアンケート用紙のように事業者が様式を用意して本人に書かせる形で個人情報を取得する場合、あらかじめ利用目的を明示しなければならないと定めています。ところがガイドライン(通則編)は、名刺についてこう説明しています。

なお、名刺などは、一般の慣行として、自身の個人情報を、本人の自発的な意思で、任意の簡便な形式により相手に提供するものであり、申込書、アンケート調査票、懸賞応募はがき等のように、個人情報取扱事業者が一定の書式や様式を準備した上で、本人が当該事業者の求めに沿う形で個人情報を提供する場合とは異なることから、本項の義務を課するものではない

名刺交換は、様式を用意して書かせる行為ではないので、明示義務の対象外という整理です。ただし同じ箇所は、その場合でも法第21条第1項に基づいて、あらかじめ利用目的を公表するか、取得後速やかに通知・公表しなければならないと続けています。口頭により個人情報を取得する場合についても同様とも書かれています。席で名前を聞き取った場合も、紙をもらった場合と扱いは変わりません。

さらに法第21条第4項第4号は、「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」を通知等の例外にしています。ガイドラインが挙げる事例はこうです。

事例2)一般の慣行として名刺を交換する場合、直接本人から、氏名・所属・肩書・連絡先等の個人情報を取得することとなるが、その利用目的が今後の連絡や、所属する会社の広告宣伝のための冊子や電子メールを送付するという利用目的であるような場合

注意したいのは、この例外が「今後の連絡」といった範囲で説明されている点です。 名刺を渡した側がおよそ想定していない使い方まで、この一行でカバーされるわけではありません。

「名刺入れのまま」と「整理した瞬間」

ここが、この記事でいちばん実用的な線です。ガイドライン(通則編)は、「個人情報データベース等」に当たる事例と当たらない事例を、次のように並べています。

該当する事例のひとつ

事例3)従業者が、名刺の情報を業務用パソコン(所有者を問わない。)の表計算ソフト等を用いて入力・整理している場合

該当しない事例のひとつ

事例1)従業者が、自己の名刺入れについて他人が自由に閲覧できる状況に置いていても、他人には容易に検索できない独自の分類方法により名刺を分類した状態である場合

同じ名刺の束が、整理の仕方ひとつで別のカテゴリに移ります。 判断の軸は「他人によっても容易に検索可能な状態か」で、ガイドラインは、コンピュータを用いていない場合であっても、紙面で処理した個人情報を一定の規則(例えば五十音順等)に従って整理・分類し、目次・索引・符号等を付して他人によっても容易に検索可能な状態に置いているものは該当する、と明記しています。パソコンを使っているかどうかが決め手なのではありません。

そしてこの「該当する」側に入ると、その情報を事業のために使っている者は個人情報取扱事業者になります(法第16条第2項)。注目すべきは、事例3の括弧書きが「所有者を問わない」と書いていることです。 私物の端末で整理していても、業務に関するものであれば同じ枠に入り得るという含みがあります。

なお、取り扱う人数の多寡で適用が外れることはありません。この点は個人情報保護委員会が公式のQ&Aで明確に否定しており、ホストの会話術の記事でも触れました。ここでは繰り返しません。

「連絡してよい範囲」は、聞いた時点で決まっている

利用目的は、できる限り特定しなければならない

法第17条第1項は、こう定めています。

個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。

そして第18条第1項が、その特定した目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱うことを、本人の同意なしには禁じています。「できる限り特定」と「範囲を超えない」がセットになっている構造です。

これを席の会話に置き換えると、次のようになります。連絡先を聞くときに何のために聞いているのか、店として説明できる形になっているか。そして、その説明の範囲の中で使われているか。この二つは、業界の慣習ではなく条文が要求している事柄です。

使い方そのものを制限する条文

さらに二つ、短いが効く条文があります。

法第19条(不適正な利用の禁止)は「違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない」と定めます。法第20条第1項(適正な取得)は「偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない」と定めます。

どちらも、条文としては一行です。しかし取得の入口(第20条)と、使い方の出口(第19条)の両側を塞いでいるという点で、実務上の意味は小さくありません。後で見るように、この二条への違反は、本人が利用停止等を請求できる根拠にもなります(法第35条第1項)。

消す努力も義務になっている

見落とされやすいのが法第22条です。個人データを正確かつ最新の内容に保つよう努めるとともに、「利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない」という努力義務が置かれています。

ガイドラインは、「利用する必要がなくなったとき」の例として、キャンペーンの懸賞品の発送が終わり、不着対応等のための合理的な期間が経過した場合を挙げています。来なくなった客の記録をいつまで持ち続けるのかという問いは、この条文の射程に入ります。努力義務なので直ちに違法という話ではありませんが、「持ち続けることが当然」という前提は法律の側には無い、ということです。

記録は誰のものか——夜の仕事に固有の緊張

記録が個人の手元にある、という状態

この業種の顧客記録には、はっきりした特徴があります。担当が個人に固定されるため、記録も個人の手元に置かれやすいということです。店のシステムに入っている情報と、個人のスマートフォンのメモに入っている情報が、同じ客について並存しているという状態が起こり得ます。

ガイドラインの別添「講ずべき安全管理措置の内容」は、物理的安全管理措置として次を挙げています。

(3)電子媒体等を持ち運ぶ場合の漏えい等の防止 個人データが記録された電子媒体又は書類等を持ち運ぶ場合、容易に個人データが判明しないよう、安全な方策を講じなければならない。

そのうえで、「持ち運ぶ」とは個人データを管理区域又は取扱区域から外へ移動させること又は当該区域の外から当該区域へ移動させることをいい、事業所内の移動等であっても紛失・盗難等に留意する必要があると定義されています。通勤鞄に入れて店と自宅を往復する記録は、この定義にそのまま当てはまります。

監督していない、と評価される例

法第24条は「従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない」と定めています。ガイドラインが挙げる「従業者に対して必要かつ適切な監督を行っていない事例」は、次の二つです。

事例1)従業者が、個人データの安全管理措置を定める規程等に従って業務を行っていることを確認しなかった結果、個人データが漏えいした場合 事例2)内部規程等に違反して個人データが入ったノート型パソコン又は外部記録媒体が繰り返し持ち出されていたにもかかわらず、その行為を放置した結果、当該パソコン又は当該記録媒体が紛失し、個人データが漏えいした場合

事例2は、「持ち出しを黙認していたこと」が監督義務違反として名指しされている形です。 記録が個人の手元に置かれる運用は、便利であると同時に、店の側の義務の観点からは放置しにくい状態だということになります。

なお「従業者」の範囲は広く、ガイドラインは正社員だけでなく契約社員・嘱託社員・パート社員・アルバイト社員、さらに取締役や派遣社員も含まれると説明しています。雇用の形が違っても、この枠から外れるわけではありません。

小さい店には、簡易な手法が示されている

ここで、規模の話を正確に押さえておきます。ガイドラインは「中小規模事業者」という区分を設けており、定義は次のとおりです。

「中小規模事業者」とは、従業員の数が100人以下の個人情報取扱事業者をいう。ただし、次に掲げる者を除く。 ・その事業の用に供する個人情報データベース等を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数の合計が過去6月以内のいずれかの日において5,000を超える者 ・委託を受けて個人データを取り扱う者

これは「義務が外れる」区分ではありません。 ガイドラインは、中小規模事業者もその他の個人情報取扱事業者と同様に法第23条の安全管理措置を講じなければならないとしたうえで、取り扱う個人データの数量や従業者数が一定程度にとどまることを踏まえ、円滑に義務を履行し得るような手法の例を示すとしています。示されている例は、たとえば「個人データの取得、利用、保存等を行う場合の基本的な取扱方法を整備する」「個人データについての秘密保持に関する事項を就業規則等に盛り込む」といった水準です。

規模が小さいことは、やらなくていい理由ではなく、やり方を簡素にしてよい理由として扱われている。 ここを取り違えないことが大切です。

辞めるとき、記録は持ち出せるのか

ここからが、この記事の中心です。

個人情報保護法には、この場面の罰則がある

個人情報保護法第179条を、そのまま引用します。

個人情報取扱事業者(その者が法人(中略)である場合にあっては、その役員、代表者又は管理人)若しくはその従業者又はこれらであった者が、その業務に関して取り扱った個人情報データベース等(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

読むべき点が四つあります。

第一に、対象者に「これらであった者」、つまり退職した人が明示的に含まれています。辞めた時点で条文の外に出るわけではありません。

第二に、対象物に「その全部又は一部を複製し、又は加工したもの」が含まれます。原本を置いていっても、写しを持っていれば同じ土俵です。

第三に、要件は「持ち出したこと」そのものではなく、「自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したとき」です。目的と、提供または盗用という行為が要ります。

第四に、法第184条第1項第1号により、法人には1億円以下の罰金刑が科され得ます。個人の罰金額(50万円以下)とは桁が違います。

なお、この責任関係については個人情報保護委員会が公式のQ&Aを設けており、事業者側の義務(法第23条の安全管理措置、法第24条の従業者の監督)と、従業者側の第179条の刑事罰、さらに民事責任を追及される可能性を並べて説明しています。

持ち出しは「報告しなければならない事態」になる

もうひとつ、店の側に発生する義務があります。顧客データの持ち出しは、個人情報保護委員会への報告対象になり得ます。

法第26条第1項を受けた規則第7条第3号は、報告対象事態のひとつをこう定めています。

不正の目的をもって行われたおそれがある当該個人情報取扱事業者に対する行為による個人データ(中略)の漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある事態

そしてガイドラインは、この「不正行為」の主体について「第三者のみならず、従業者も含まれる」と明記し、報告を要する事例として次を挙げています。

事例4)従業者が顧客の個人データを不正に持ち出して第三者に提供した場合

報告の期限も定められています。個人情報保護委員会は速報について「速やか(概ね3〜5日以内)」と案内しており、確報は規則第8条第2項により、事態を知った日から30日以内、規則第7条第3号の事態については60日以内とされています。あわせて法第26条第2項により、本人への通知も必要です。

つまり、ノートを持って辞めた側の問題だけでは終わりません。 店の側に、委員会への報告義務と、名前を書かれていた客一人ひとりへの通知義務が発生し得ます。「内々に処理する」という選択肢が制度上は用意されていない、ということです。

もう一つの法律——不正競争防止法の「営業秘密」

個人情報保護法は、本人(この場合は客)の権利利益を守る法律です。これに対し、店が「うちの財産だ」と主張する側の法律が、不正競争防止法です。

同法第2条第6項の定義はこうです。

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

経済産業省の「営業秘密管理指針」(平成15年1月策定、令和7年3月31日最終改訂)は、この定義を①秘密管理性、②有用性、③非公知性の三要件に分解し、三要件すべてを満たすことが法に基づく保護を受けるために必要だと説明しています。同指針は冒頭で、これは経済産業省が行政の立場から示す一つの考え方であって法的拘束力を持つものではなく、個別事案の解決は最終的に裁判所において判断されると明記しています。

顧客情報について、指針が紹介している裁判例

指針が秘密管理性の説明で紹介している裁判例には、この記事の文脈に直接届くものがあります。

規模が小さくても認められた例。 パスワード等によるアクセス制限も秘密である旨の表示もなかったにもかかわらず、全従業員数が10名であり、性質上情報への日常的なアクセスを制限できないことも考慮して、秘密管理性を肯定した例(大阪地判平成15年2月27日 平成13年(ワ)10308号)。

自宅への持ち帰りがあっても認められた例。 顧客情報の写しが上司等に配布されたり、自宅に持ち帰られたり、手帳等で管理されて成約後も破棄されなかったりしていたとしても、これらは営業上の必要性に基づくものであり、従業員が本件顧客情報を秘密であると容易に認識し得るようにしていたとして、秘密管理性を肯定した例(知財高判平成24年7月4日 平成23年(ネ)10084号)。

規範的な管理で認められた例。 アクセス制限の程度が明らかでなく、物理的な管理が徹底されていたとはいいがたい事情があるとしても、顧客情報を一元化してデータ管理し、就業規則において顧客情報の開示等を禁止し、退職従業員に対しても顧客情報を漏えいしないことを誓約させるなど規範的な管理がなされていたことに加え、その事業者にとっての顧客情報の重要性に鑑みて、秘密管理性を肯定した例(大阪地判平成30年3月5日 平成28年(ワ)648号)。

この三つが示しているのは、「小さい店だから」「持ち帰り運用だから」といった事情だけで営業秘密にならないとは言えない、ということです。 逆に、これらの裁判例をもって「顧客ノートは当然に営業秘密だ」と言うこともできません。指針自身が書いているとおり、判断は個別の具体的状況に応じて総合的に行われます。

罰則の重さと、条文の分かれ方

営業秘密を侵害した場合の刑事罰は、個人情報保護法とは水準が違います。不正競争防止法第21条第2項は、次の各号のいずれかに該当する者を10年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金、またはその併科としています。この記事に関係する号を整理すると、次のようになります。

  • 第1号:営業秘密を営業秘密保有者から示された者が、図利加害目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、記録媒体等の横領・複製・消去したように仮装するといった方法で領得したもの
  • 第3号:営業秘密を示されたその役員または従業者が、図利加害目的で任務に背き、その営業秘密を使用または開示したもの
  • 第4号:役員または従業者であった者が、在職中に図利加害目的で任務に背いて開示の申込みをし、または使用・開示について請託を受けて、その職を退いた後に使用・開示したもの

民事の側では、第3条が差止請求権を、第4条が損害賠償を定めています。第2条第1項第7号は、営業秘密を示された者が図利加害目的でそれを使用し、又は開示する行為を不正競争として挙げており、こちらは物理的な媒体の持ち出しを要件にしていません。

ここに、実務的に重要な段差があります。 第21条第2項第1号は「横領」「複製」といった媒体を前提とした行為を並べていますが、第3号や第2条第1項第7号が捉えているのは「使用」「開示」です。営業秘密管理指針も、媒体に対する管理措置とは別に、媒体が利用されない場合についての項目を設けています。「紙は置いていったから大丈夫」という整理が、そのまま通るとは限らないということです。

もっとも、頭の中に残った記憶がどこまで法的に問題になるかは、一般論として断定できません。 図利加害目的があったといえるか、任務に背いたといえるか、その情報が三要件を満たすかが、いずれも個別に判断されます。ここは「グレーゾーン」ではなく「個別判断」と理解するのが正確です。

辞める前に確認しておきたいこと

以上を踏まえると、退店の前後で確認しておくべき事柄は、感情の話ではなく手続の話になります。

  1. 就業規則や誓約書に、顧客情報の取扱いと退職時の扱いがどう書かれているか。 ガイドラインは中小規模事業者の手法の例として「秘密保持に関する事項を就業規則等に盛り込む」を挙げており、営業秘密管理指針が紹介する裁判例でも誓約書の有無が事情として考慮されています。
  2. 記録の返還・削除の手順が決まっているか。 ガイドラインは、個人データを削除し、又は個人データが記録された機器・電子媒体等を廃棄する場合は復元不可能な手段で行わなければならないとし、削除・廃棄した記録を保存することの重要性にも触れています。
  3. 私物の端末に入っている分をどう扱うか。 前述のとおり、ガイドラインの事例は「所有者を問わない」と書いています。私物であることは、それだけで切り分けの理由になりません。
  4. 店側が利用目的をどう公表しているか。 引き継ぎの範囲も、公表された利用目的の内側か外側かで意味が変わります。

この四つは、辞めると決めてから聞くより、働き始めるときに聞いておくほうがはるかに簡単です。

今、時間がある人が並んでいます

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客の側から見ると、何ができるのか

名前を覚えられている側にも、条文上の手がかりがあります。三つ挙げます。

1. 利用目的を教えてもらう

法第32条第1項は、事業者の氏名または名称と住所(法人の場合は代表者の氏名も)、すべての保有個人データの利用目的、請求に応じる手続などを本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む)に置かなければならないとしています。同条第2項は、本人から利用目的の通知を求められたとき、遅滞なく通知しなければならないと定めます。

「私の連絡先は、何のために使われていますか」は、条文に根拠のある質問です。

2. 開示を請求する

法第33条第1項は、本人が自分に関する保有個人データの開示を請求できると定めています。事業者は原則として遅滞なく開示しなければなりませんが、本人または第三者の生命・身体・財産その他の権利利益を害するおそれがある場合、業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合、他の法令に違反することとなる場合には、その全部または一部を開示しないことができます。開示されない可能性もある請求権であるという点は、期待値として押さえておくべきところです。

3. 使うのをやめてもらう

法第35条は、条件ごとに複数の請求権を並べています。実務でいちばん使いやすいのは第5項で、保有個人データを事業者が利用する必要がなくなった場合、法第26条第1項本文に規定する事態(報告対象となる漏えい等)が生じた場合、その他本人の権利または正当な利益が害されるおそれがある場合に、利用停止等または第三者への提供の停止を請求できるとしています。

ガイドラインは、この「権利又は正当な利益が害されるおそれがある」として請求が認められると考えられる事例を挙げており、先頭の二つは次のとおりです。

事例1)ダイレクトメールの送付を受けた本人が、送付の停止を求める意思を表示したにもかかわらず、個人情報取扱事業者がダイレクトメールを繰り返し送付していることから、本人が利用停止等を請求する場合 事例2)電話勧誘を受けた本人が、電話勧誘の停止を求める意思を表示したにもかかわらず、個人情報取扱事業者が本人に対する電話勧誘を繰り返し行っていることから、本人が利用停止等を請求する場合

「やめてほしいと言ったのに続いている」という状態が、そのまま条文上の要件として書かれています。 来店を促す連絡についても、考え方の枠組みは同じです。

なお、これらの請求は事業者(店)に対するものです。店を離れた個人同士のやり取りは別の枠組みで、その線引きの一部はキャバクラの源氏名の記事でも触れています。

相談できるところ

個人情報の取扱いについて

  • 個人情報保護法相談ダイヤル(個人情報保護委員会)03-6457-9849/受付時間 9:30〜17:30(土日祝日及び年末年始を除く)——事業者又は行政機関等における個人情報等の取扱いに関する苦情、個人情報保護法や個人情報保護制度に関する質問を受け付けています。同委員会は基本的な質問に24時間対応するチャットボットも案内しています

営業秘密・顧客情報の持ち出しについて

  • 営業秘密・知財戦略相談窓口(INPIT)03-3581-1101(内線3844)——経済産業省が営業秘密や知財戦略についての相談先として案内している窓口です
  • 知財総合支援窓口 0570-082100——全国47都道府県に設置された最寄りの窓口につながる全国共通のダイヤルです

よくある質問

Q1. 名前しか教えていなくても、個人情報になりますか。

はい。個人情報保護法第2条第1項第1号は、定義の先頭に「氏名」を挙げています。氏名だけでも特定の個人を識別できる以上、個人情報に当たります。ただし、法律上の各種の義務がかかる「個人情報取扱事業者」になるかどうかは別の話で、こちらは特定の個人情報を容易に検索できるように体系的に構成した「個人情報データベース等」を事業のために使っているかどうかで決まります(法第16条第2項)。

Q2. 名刺をもらっただけの状態と、まとめて管理している状態で、扱いは違いますか。

ガイドライン(通則編)は両者を別の事例として並べています。名刺入れの中で、他人には容易に検索できない独自の分類方法により分類されている状態は「個人情報データベース等に該当しない事例」、名刺の情報を業務用パソコンの表計算ソフト等で入力・整理している状態は「該当する事例」です。紙のままでも、五十音順などの規則で整理・分類し、目次・索引・符号等を付けて他人によっても容易に検索できる状態にすれば該当し得ます。

Q3. 来店を促す連絡は、どこまでしてよいのですか。

一般論として、法第17条第1項により利用目的をできる限り特定し、法第18条第1項によりその達成に必要な範囲を超えない、というのが枠組みです。名刺交換のように「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」は通知等が不要になり得ますが(法第21条第4項第4号)、ガイドラインが挙げる事例は「今後の連絡」といった範囲のものです。個別にどこまで許されるかは、その店の利用目的の定め方と実際の使われ方によります。

Q4. 辞めるときに、お客さんの連絡先を持って行ってもいいのですか。

一般論としては、慎重に考えるべき場面です。個人情報保護法第179条は、従業者「であった者」が業務に関して取り扱った個人情報データベース等(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む)を、自己または第三者の不正な利益を図る目的で提供し、または盗用したときに、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定めています。加えて、その情報が不正競争防止法上の営業秘密の三要件を満たす場合には、同法第21条第2項により10年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金(併科あり)の対象になり得ます。まずは就業規則・誓約書の定めと、店の返還/削除の手順を確認してください。個別の判断は事情によって変わるため、迷う場合は前掲の相談窓口へどうぞ。

Q5. 記録を持ち出さずに、覚えていることを使うのはどうですか。

条文の作りが分かれています。不正競争防止法第21条第2項第1号は「横領」「複製」など媒体を前提とした行為を並べていますが、同法第2条第1項第7号は、営業秘密を示された者が図利加害目的で「使用し、又は開示する行為」を不正競争としており、媒体の持ち出しを要件にしていません。経済産業省の営業秘密管理指針にも、媒体が利用されない場合についての項目があります。ただし、実際に問題になるかどうかは目的の有無や三要件の充足を含む個別判断で、最終的には裁判所が判断します。

Q6. 従業員が数人しかいない小さな店でも、同じ義務がかかりますか。

かかります。ガイドラインは従業員100人以下の事業者を「中小規模事業者」として区分していますが(過去6か月以内のいずれかの日に5,000を超える人数分の個人情報データベース等を事業に用いる者と、委託を受けて個人データを取り扱う者は除かれます)、これは義務が外れる区分ではなく、円滑に義務を履行し得るような簡易な手法の例が示されている区分です。また営業秘密管理指針は、全従業員数が10名の事業者について秘密管理性を肯定した裁判例を紹介しています。

Q7. 顧客名簿が持ち出されたら、店は何をしなければなりませんか。

一般論として、規則第7条第3号の「不正の目的をもって行われたおそれがある行為による個人データの漏えい等」に当たり得ます。ガイドラインは、この不正行為の主体に従業者も含まれるとし、「従業者が顧客の個人データを不正に持ち出して第三者に提供した場合」を報告を要する事例として挙げています。個人情報保護委員会への速報(同委員会の案内では概ね3〜5日以内)と、規則第8条第2項による確報(同号の事態は知った日から60日以内)、さらに法第26条第2項に基づく本人への通知が必要になります。

Q8. 自分の情報がどう扱われているか、客の側から確認できますか。

条文上の手がかりは三つあります。保有個人データの利用目的の通知を求めること(法第32条第2項)、開示を請求すること(法第33条第1項)、利用停止等または第三者への提供の停止を請求すること(法第35条)です。特に第35条第5項については、ガイドラインが「送付の停止を求めたのにダイレクトメールが繰り返し送られている場合」「停止を求めたのに電話勧誘が繰り返されている場合」を、請求が認められると考えられる事例として挙げています。

まとめ:この記事の要点

  • 名前の覚え方そのものに公的なルールはない。効いているのは記憶・自分の記録・店の記録という複数の経路で、どれが主かは店や人により、公的な調査は見当たらない
  • 氏名は、それ単独で個人情報保護法第2条第1項第1号の「個人情報」に当たる
  • 名刺交換は法第21条第2項の明示義務の対象外だが、法第21条第1項の通知・公表は必要。口頭で聞き取った場合も同じ。第21条第4項第4号の例外は「今後の連絡」といった範囲を想定した事例で説明されている
  • ガイドラインは「名刺入れの中で独自に分類した状態」を該当しない例、「表計算ソフト等で入力・整理した状態」を該当する例として並べている。後者の括弧書きは「所有者を問わない」
  • 連絡してよい範囲は取得時に決まる(法第17条・第18条)。使い方の出口は法第19条、入口は法第20条が塞ぐ。法第22条は必要がなくなった個人データの消去を努力義務としている
  • 記録の持ち運びは安全管理措置の対象。ガイドラインは「持ち出しの放置」を、従業者の監督を行っていない事例として挙げている
  • 従業員100人以下は「中小規模事業者」として簡易な手法が示されるが、義務そのものは外れない
  • 退職者による持ち出しは、個人情報保護法第179条(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金/法人は第184条により1億円以下)と、不正競争防止法第21条第2項(10年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金、併科あり)の両方に関わり得る
  • 持ち出しは店側にとって規則第7条第3号の報告対象事態になり得る。確報は知った日から60日以内、本人への通知も必要
  • 営業秘密の三要件を満たすかは個別判断。指針は法的拘束力を持たず、最終判断は裁判所が行う
  • 客の側は、利用目的の通知(第32条第2項)、開示(第33条)、利用停止等(第35条)を請求できる

名前を覚えてもらうこと自体は、うれしいものです。ただ、その裏側には記録があり、記録には持ち主と行き先の問題がついてきます。気楽に話したいだけの時間に、この重さを毎回持ち込むのは、たしかに面倒です。 そういう日のために、名刺も来店履歴も台帳も介在しない話し方があります。LOVETOK NOWは「今、話せます」と待機している人だけが一覧に並び、マッチングを待たずにその場でチャットを始められるサービスです(20歳以上・年齢確認あり)。地域ごとの話は出会いガイドにまとめています。

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