結論から書きます。夜職の契約書を確認するときの最初の一手は、金額を読むことではありません。「この紙は何契約なのか」を確かめることです。雇用契約なら労働基準法が最低ラインを引き、業務委託ならフリーランス法と民法が別のルールで動きます。そしてどちらであっても、契約書に書いてあるのに法律上は効かない条項があります。罰金、違約金、積立金、給料からの天引き。そこを知っているかどうかで、同じ紙を読んでも見えるものが変わります。
この記事で分かること
- 店で渡される書類が何種類あり、それぞれ何を決めている紙なのか
- 契約書の題名が、その契約の性質を決めるわけではないこと
- 労働者として働く場合に書面で示されるはずの項目(2024年4月に3つ増えました)
- 書いてあっても効力を持たない条項の見分け方——罰金・違約金・積立金・天引き
- 業務委託のときに効く法律と、そこで決まっている期日(60日・30日)
- 誓約書と身元保証書で見るべき一行
- 署名する前の確認の順番と、契約書をもらえないときにできること
なお、この記事は一般的な制度の説明です。実際にどう扱われるかは契約の中身と働き方の実態によって変わります。個別の判断は、後半で挙げる公的な相談窓口に確かめてください。
店で渡される「契約書」は、たいてい1枚ではない
「契約書を確認する」と言うとき、多くの人は1枚の紙を想像します。ところが実際に入店の日に渡されるのは、性質の違う書類の束であることが少なくありません。まず、目の前にある紙が何なのかを分けるところから始めます。
| 書類 | 何を決めている紙か | 署名するのは |
|---|---|---|
| 雇用契約書 | 労働契約の内容そのもの。合意した証拠になる | 本人と店の双方 |
| 労働条件通知書 | 店が労働条件を「明示」するための書面 | 店から交付されるのが基本 |
| 業務委託契約書 | 労働契約ではない形で仕事を受ける条件 | 本人と店の双方 |
| 誓約書・秘密保持契約書 | 情報の取扱いやSNSなど、守る側の義務 | 本人 |
| 身元保証書 | 本人が店に損害を与えた場合の保証 | 家族などの保証人 |
| 振込先・控除の同意書 | 振込口座と、差し引きに同意するか | 本人 |
雇用契約書と労働条件通知書は混同されやすいのですが、役割が違います。通知書は「示す」ための書面、契約書は「合意した」ことの証拠です。労働契約法4条2項は、労働者と使用者は労働契約の内容について「できる限り書面により確認するものとする」と定めています。通知書だけを受け取っている状態がただちに違法というわけではありませんが、後から食い違ったときに合意の中身を示しにくい状態ではあります。
だから、確認の第一歩はその場で書類の枚数と題名を数えることです。あとで「そんな紙にサインした覚えはない」と言えなくなるのは、たいてい何枚あったかを覚えていないときです。
題名は、契約の性質を決めない
「業務委託契約書」と書いてあれば業務委託になる、というわけではありません。労働基準法9条は「労働者」を、職業の種類を問わず、事業に使用される者で賃金を支払われる者と定めています。契約書の題名ではなく、使われ方と報酬の性格で決まる書き方です。
この判断のものさしとして参照されてきたのが、厚生労働省が公開している労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)です。報告は、契約形式のいかんにかかわらず実質的な使用従属性を総合的に判断する必要があるとしたうえで、判断の要素を整理しています。夜の店の場面に置き換えると、次のような見え方になります。
| 見るところ | 労働者に近づく方向 | 事業者に近づく方向 |
|---|---|---|
| 仕事の依頼を断れるか | 諾否の自由がない | 諾否の自由がある |
| 業務のやり方 | 内容や遂行方法に具体的な指揮命令を受ける | 注文者が行う程度の指示にとどまる |
| 場所と時間 | 勤務場所・勤務時間が指定され管理されている | 自分の裁量で決められる |
| 代わりの人 | 本人以外が代わることを認められていない | 代替が認められている(補強要素) |
| 報酬の性格 | 時間を基礎に計算され、欠勤なら控除される | 仕事の結果に対する代金 |
| 道具・機材 | 店が用意する | 著しく高価なものを自分で所有し持ち込む(補強要素) |
報告では、代替性は指揮監督関係の判断を補強する要素、機械器具の負担関係や報酬の額は事業者性の有無を見る補強要素と位置づけられています。ひとつの項目だけで決まるものではありません。
実務上、ここを最初に確認する理由ははっきりしています。労働者にあたるなら、この先で説明する労働基準法の条文が全部かかってきます。あたらないなら、かかるのは民法とフリーランス法です。読むべき条文が入れ替わるので、順番として最初に来ます。
労働者として働く場合、示されるはずの項目
労働基準法15条1項は、労働契約の締結に際して賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定め、具体的な中身は労働基準法施行規則5条に置かれています。施行規則5条2項は、明示すべき労働条件を「事実と異なるものとしてはならない」とも定めています。
| 区分 | 項目 |
|---|---|
| 原則として書面で示される | 労働契約の期間/有期契約を更新する場合の基準(更新上限を含む)/就業の場所と従事すべき業務(変更の範囲を含む)/始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制の就業時転換/賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払の時期(昇給に関する事項を除く)/退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
| 定めをする場合に明示 | 退職手当/臨時の賃金・賞与・最低賃金額/労働者に負担させる食費や作業用品/安全衛生/職業訓練/災害補償と業務外の傷病扶助/表彰と制裁/休職 |
下の段が薄く見えるかもしれませんが、夜の店ではむしろこちらが効きます。「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項」と「表彰及び制裁に関する事項」は、定めがあるなら明示すべき項目です。衣装代やヘアセット代の扱い、遅刻したときの扱いが口頭でしか説明されていないなら、書面で確認する余地があります。
2024年4月に増えた3つ
施行規則の改正で、明示事項が追加されました。
- 就業の場所と従事すべき業務の「変更の範囲」(5条1項1号の3)。雇い入れ直後だけでなく、契約期間中に変わりうる範囲まで示すことになりました。系列店へのヘルプや異動がある店では、ここが実質的な意味を持ちます。
- 有期契約を更新する場合の基準に、更新回数や通算契約期間の上限があるならその上限(同1号の2)。
- 無期転換の申込みができるようになる有期契約を結ぶときは、その申込みに関する事項と、転換後の労働条件(5条5項・6項)。
厚生労働省は「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」としてリーフレットやモデル労働条件通知書を公開しています。入店時の書類全体の流れは新人ホストが最初に覚えることで扱っているので、ここでは契約書側の読み方に絞ります。
示し方は「書面の交付」が原則
施行規則5条4項は、明示の方法を「書面の交付」としています。ただし、労働者本人が希望した場合には、ファクシミリの送信か、電子メール等(本人が記録を出力して書面を作成できるものに限る)による方法をとることができます。
つまり、メッセージアプリで送られてきた画像1枚は、自分がそれを希望したのかどうかで位置づけが変わります。希望していないのに画面上でしか見られない状態なら、書面の交付を求めて構いません。
示された条件が事実と違ったとき
労働基準法15条2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できると定めています。さらに同条3項は、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者が必要な旅費を負担しなければならないとしています。地方から出てきて住み込みで働き始めた人を想定した条文です。
15条1項・3項に違反した場合の罰則は、労働基準法120条1号の30万円以下の罰金です。
書いてあっても効かない条項
ここがこの記事の中心です。契約書に印字されていても、法律上その通りには効かない条項があります。
| 契約書によくある書き方 | どうなるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 遅刻1回につき◯円、無断欠勤1回につき◯円 | 労働契約の不履行について違約金を定め、賠償額をあらかじめ決める契約は禁止 | 労基法16条 |
| 途中でやめた場合は違約金◯万円 | 同上 | 労基法16条 |
| 前借金は給料から差し引く | 労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺することは禁止 | 労基法17条 |
| 毎月◯円を店で積み立てる | 労働契約に附随して貯蓄の契約をさせること、貯蓄金を管理する契約は禁止 | 労基法18条1項 |
| 衣装代・送迎代を給料から天引き | 賃金は全額払いが原則。控除できるのは法令に定めがある場合か、労使協定がある場合 | 労基法24条1項 |
| ミスをしたら賃金から◯円減らす | 就業規則の減給の制裁には上限がある | 労基法91条 |
| 法律の基準を下回る条件 | その部分は無効になり、法律の基準による | 労基法13条 |
| 就業規則の基準に達しない条件 | その部分は無効になり、就業規則の基準による | 労働契約法12条 |
罰金と違約金
労働基準法16条の条文は短く、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とだけ書かれています。厚生労働省も、雇用契約書に罰金を記載することについて、労働者の労働契約不履行について違約金を支払わせることや損害賠償額をあらかじめ決めておくことは禁止されている、と説明しています。
注意したいのは、条文が禁じているのが「あらかじめ額を決めておくこと」である点です。現実に損害が生じた場合の扱いはまた別の問題になるため、そこは個別の事情によります。ただ、契約書の段階で金額が印字されている定めについては、条文が正面から対象にしています。
16条・17条・18条1項の違反は、労働基準法119条1号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金と定められています。15条や24条の違反(30万円以下の罰金)より重い側に置かれている条文だ、ということも読み取れます。
減給の制裁は、罰金とは別の枠
「働いていない時間の分の賃金が発生しない」ことと、「制裁として賃金を減らす」ことは別の話です。後者は労働基準法91条が上限を定めています。就業規則で減給の制裁を定める場合、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。就業規則に制裁の定めがあるなら、この2つの上限に照らして読みます。
積立金と保証金は、辞めるときに効いてくる
積立金の条項は、入店時よりも退店時に問題になります。労働基準法23条1項は、労働者の死亡または退職の場合において、権利者の請求があったときは、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称のいかんを問わず労働者の権利に属する金品を返還しなければならないと定めています。名称を問わない、と書いてあるのがこの条文の要点です。「保証金」でも「預り金」でも扱いは同じです。
天引きそのものの考え方と、衣装・美容費の分け方は夜職の衣装・美容代で詳しく扱っています。
期間と、辞め方の条項
契約書の中で見落とされやすいのが、期間と終わり方の条項です。
- 期間の定めがない場合:民法627条1項により、いつでも解約の申入れができ、申入れの日から2週間を経過することによって雇用が終了します。
- 期間の定めがある場合:契約期間は原則として3年を超えて締結できません(労働基準法14条1項。高度の専門的知識等を有する労働者、満60歳以上の労働者は5年)。期間の途中でも、やむを得ない事由があるときは各当事者が直ちに解除できます(民法628条)。さらに労働基準法附則137条により、1年を超える有期労働契約を結んだ労働者は、契約期間の初日から1年を経過した日以後は、使用者に申し出ることでいつでも退職できるとされています(14条1項各号の労働者を除く)。
- 店側から期間の途中で切る場合:労働契約法17条1項は、やむを得ない事由がある場合でなければ期間満了までの間に労働者を解雇できないとしています。期間の定めがない場合の解雇には、同法16条の解雇権濫用のルールがかかります。
契約書に更新の記載があるなら、更新の基準と上限は前述のとおり明示事項に含まれています。「更新の可能性あり」とだけ書かれていて基準が書かれていないなら、その基準を聞くところまでが確認です。
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業務委託契約書のときに読む条文
業務委託は、民法でいえば委任(643条)や請負(632条)の枠に入る取引で、当事者が自由に条件を決められるのが原則です。だからこそ、最低ラインを別の法律が引いています。それがフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律/令和5年法律第25号)です。
対象になるのは「特定受託事業者」、すなわち業務委託の相手方である事業者のうち、個人であって従業員を使用しないもの(または一の代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人)です。公正取引委員会のQ&Aでは、ここでいう従業員を、1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者と説明しています。
| 条文 | 決まっていること | 契約書のどこを見るか |
|---|---|---|
| 3条 | 業務委託をしたら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法で明示する。電磁的方法で明示した場合、書面の交付を求められたら遅滞なく交付 | 報酬の額と支払期日が書いてあるか |
| 4条1項 | 報酬の支払期日は、給付を受領した日(役務の提供なら提供を受けた日)から起算して60日以内の、できる限り短い期間で定める | 支払サイトが60日を超えていないか |
| 4条2項 | 期日を定めなかったときは受領日、60日を超えて定めたときは60日を経過する日が支払期日とみなされる | — |
| 5条1項 | 一定期間以上の業務委託で、責めに帰すべき事由がないのに受領を拒む・報酬を減らす・引き取らせる、著しく低い報酬を不当に定める、指定する物や役務を強制して購入・利用させることを禁止 | 指定品の購入を義務づける条項 |
| 5条2項 | 自己のために金銭や役務その他の経済上の利益を提供させること、責めに帰すべき事由がないのに給付内容を変更させたりやり直させたりして利益を不当に害することを禁止 | — |
| 16条1項 | 継続的業務委託の契約を解除する場合(更新しない場合を含む)は、少なくとも30日前までに予告 | 「いつでも即時に解除できる」条項 |
| 16条2項 | 予告の日から契約が満了する日までの間に理由の開示を請求されたら、遅滞なく開示 | — |
5条が対象とする期間は1か月以上、16条の「継続的業務委託」は6か月以上と整理されています(公正取引委員会Q&A)。なお、役務の提供を委託する類型では、5条1項のうち受領拒否と引取り(返品)に関する部分は適用対象から外れます。
業務委託のトラブルには、厚生労働省から第二東京弁護士会が受託して運営するフリーランス・トラブル110番という窓口があります。あいまいな契約、ハラスメント、報酬の未払いなどが対象で、相談も和解あっせん手続も無料と案内されています。
誓約書と身元保証書は、別の観点で読む
誓約書や秘密保持契約書は、たいてい守る側の義務だけが並ぶ紙です。だから確認の観点も変わります。
- 秘密保持・SNS:客の情報や店内の様子をどこまで扱ってよいか。対象の範囲と、退店後もいつまで続くのかを見ます。
- 競業避止:退店後に同業で働くことを制限する条項。期間・地域・対象になる業務が限定されているかを確認します。どこまで効くかは事案ごとに判断されるため、範囲が広すぎると感じたら署名前に相談窓口へ持ち込むほうが確実です。
- 身元保証書:家族などに署名を求める紙です。将来発生するかどうか分からない不特定の債務を個人が保証する契約は、民法上の「個人根保証契約」にあたり得ます。民法465条の2第2項は、個人根保証契約は極度額を定めなければその効力を生じないと定めています。上限額の欄が空欄のまま署名を求められていないか、ここは一行で確認できます。
- 借用書・前借金:風営法18条の2は、接待飲食等営業を営む風俗営業者について、接客従業者でなくなった場合に直ちに残存する債務を完済することを条件として、その支払能力に照らし不相当に高額の債務を負担させる行為と、そうした債務を負わせた接客従業者の旅券等(運転免許証などを含む)を保管し、または第三者に保管させる行為を禁止しています。
就業規則は、契約書の続きとして読む
契約書に「詳細は就業規則による」と書かれているなら、その就業規則を見るまでが確認です。
労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、始業・終業の時刻、賃金の決定・計算・支払の方法、退職に関する事項(解雇の事由を含む)、制裁の定めをする場合はその種類と程度などについて就業規則を作成し、行政官庁に届け出ることを義務づけています。同法106条1項は、就業規則を見やすい場所に掲示するか備え付けるなどの方法で労働者に周知させることも義務づけています。
そのうえで労働契約法7条は、合理的な労働条件が定められている就業規則を周知させていた場合、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件による、としています。周知されていた就業規則は、契約書に書かれていなくても契約の内容になりうるということです。逆に、就業規則の基準に達しない労働契約はその部分が無効になります(同法12条)。
署名する前の順番
上から順に読むのではなく、次の順で見ると短時間で済みます。
- 枚数と題名を数える。何にサインするのかを先に把握する
- 期間の定めの有無を確認する。ここで辞め方のルールが変わる
- 賃金の決定・計算・支払の方法と、締切日・支払日を読む
- 差し引かれるものを全部書き出す。品目と金額と回数
- 「罰金」「違約金」「積立」「保証金」「前借」の5語を探す。あれば前述の表に当てる
- 辞めるときの手続と、辞めた後の制限を読む
- 空欄がないか確認する。空欄のまま署名しない
- 控えをもらう。もらえないなら全ページを撮影しておく
あわせて、求人票と突き合わせます。職業安定法5条の3は、募集を行う者に対し、従事すべき業務の内容や賃金・労働時間その他の労働条件を明示するよう義務づけています。同法5条の4は、求人情報について虚偽の表示や誤解を生じさせる表示を禁じ、正確かつ最新の内容に保つことを求めています。求人票の画面は、その日のうちに保存しておくと後で使えます。
契約書をもらえないとき
「うちは契約書を出していない」と言われることがあります。そのとき効くのは次の2点です。
- 労働者として働くなら、契約書の有無とは別に、労働基準法15条1項の明示義務があります。原則は書面の交付です。
- 業務委託なら、フリーランス法3条により、業務委託をした場合は直ちに給付の内容・報酬の額・支払期日その他を書面または電磁的方法で明示する義務があります。電磁的方法で示された場合でも、書面の交付を求めることができます。
それでも出てこないときは、自分の側で記録を作ります。求人票の画面、面接でのやりとり、出勤の日時、受け取った金額。労働条件については、厚生労働省が労働基準監督署、総合労働相談コーナー、平日夜間や土日祝も無料で電話相談できる労働条件相談ほっとラインなどの窓口を案内しています。業務委託については前述のフリーランス・トラブル110番があります。
よくある質問
Q1. 「契約書はない」と言われました。違法ですか?
契約書という1枚の書面を必ず作る義務が定められているわけではありません。ただし、労働者として働く場合には労働基準法15条1項の労働条件の明示義務があり、原則として書面の交付によることとされています。業務委託の場合はフリーランス法3条の明示義務があります。「契約書がない」ことと「何も示さなくてよい」ことは別です。
Q2. 「業務委託だから労働基準法は関係ない」と言われました。
契約書の題名で決まるわけではありません。労働基準法9条の労働者にあたるかどうかは、指揮監督下の労働といえるか、報酬が労務の対償として支払われているかを中心に、総合的に判断されるとされています。判断の要素は本文の表のとおりです。実態と紙の名前が食い違っていると感じるなら、労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談してください。
Q3. 罰金の条項に署名してしまいました。もう払うしかないのでしょうか。
労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定めることと、損害賠償額をあらかじめ予定する契約をすることを禁止しています。署名の有無で条文の適用が変わる書き方にはなっていません。現実に生じた損害の扱いは別の問題になるため、金額を求められている段階で相談窓口に持ち込むのが確実です。
Q4. 「途中でやめたら違約金」と言われています。辞められませんか。
違約金の定め自体が16条の対象です。辞め方については、期間の定めのない契約なら民法627条1項により申入れから2週間で終了します。1年を超える有期契約なら、労働基準法附則137条により初日から1年を経過した日以後は申し出て退職できるとされています(一部の労働者を除く)。
Q5. 毎月引かれていた積立金は返ってきますか。
労働基準法23条1項は、退職の場合に権利者の請求があったときは7日以内に賃金を支払い、積立金・保証金・貯蓄金その他名称のいかんを問わず労働者の権利に属する金品を返還しなければならないと定めています。そもそも労働契約に附随して貯蓄の契約をさせることは同法18条1項で禁止されています。請求したことが分かる形(日付の残るメッセージなど)で伝えておくと、後で確認しやすくなります。
Q6. 求人の条件と契約書の条件が違いました。
労働基準法施行規則5条2項は、明示すべき労働条件を事実と異なるものとしてはならないとしています。また同法15条2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合に労働者が即時に契約を解除できるとし、3項は住居を移した人が14日以内に帰郷する場合の旅費を使用者の負担としています。求人票側については職業安定法5条の3・5条の4があります。まず求人票の画面と契約書の両方を保存してください。
Q7. 業務委託で、報酬がいつまでも支払われません。
フリーランス法4条1項は、報酬の支払期日を、給付を受領した日(役務の提供なら提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間で定めなければならないとしています。期日を定めなかった場合は受領日が、60日を超えて定めた場合は60日を経過する日が支払期日とみなされます(同条2項)。フリーランス・トラブル110番は相談も和解あっせんも無料と案内されています。
Q8. 契約書のコピーをもらえません。
法律上、双方が署名した書面の控えを必ず渡す義務が一律に定められているわけではありませんが、業務委託では電磁的方法で明示を受けた場合に書面の交付を求められる旨がフリーランス法3条2項に定められています。労働者の場合も、明示は原則として書面の交付です。渡されないなら、署名する前に全ページを撮影しておくのが現実的です。
まとめ
- 渡される書類は1枚ではない。雇用契約書、労働条件通知書、業務委託契約書、誓約書、身元保証書、控除の同意書は別々の紙で、確認の観点も違う
- 題名は契約の性質を決めない。指揮監督下の労働といえるか、報酬が労務の対償かを中心に判断されるとされている
- 労働者なら、労働基準法15条1項と施行規則5条により明示される項目が決まっている。2024年4月から、就業場所・業務の変更の範囲、更新上限、無期転換に関する事項が加わった
- 明示は書面の交付が原則。本人が希望した場合に限りFAXや電子メール等でもよい
- 罰金・違約金の定め(16条)、前借金と賃金の相殺(17条)、積立金(18条1項)、労使協定などのない天引き(24条1項)は、契約書に書かれていても法律が正面から禁じている
- 就業規則で減給の制裁を定める場合、1回は平均賃金1日分の半額まで、総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1までという上限がある(91条)
- 退職時は、請求があれば7日以内に賃金と積立金・保証金等を返還することが定められている(23条1項)
- 業務委託にはフリーランス法が効く。明示義務(3条)、60日以内の支払期日(4条)、禁止行為(5条)、6か月以上の契約を切るときの30日前予告(16条)
- 身元保証書は、極度額を定めなければ効力を生じない個人根保証契約にあたり得る(民法465条の2第2項)
- 署名する前に、枚数を数え、空欄を埋めさせ、控えを確保する。求人票の画面はその日に保存する
契約の話は、周りに聞ける人がいるかどうかで抱え込む時間が変わります。LOVETOK NOW は、いま「話せます」と待機している人だけが並ぶサービスで、マッチングを待たずにそのまま話しかけられます。20歳以上・年齢確認ありで利用でき、お住まいの地域から見てみることもできます。
参考情報
- e-Gov法令検索「労働基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」 https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
- e-Gov法令検索「労働契約法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
- e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025
- e-Gov法令検索「民法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索「職業安定法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141
- e-Gov法令検索「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000122
- 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html
- 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」リーフレット https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001298245.pdf
- 厚生労働省「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xgbw-att/2r9852000000xgi8.pdf
- 厚生労働省「雇用契約書に、不良品を出した場合、1回につき2,000円の罰金を支払うと記載されています。問題ないのでしょうか。」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_8.html
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」相談窓口 https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/soudan/index.html
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A「採用時にはどのような労働条件が明示されるのでしょうか?」 https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/koyou/q1.html
- 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法 Q&A」 https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited/fllaw_qa.html
- フリーランス・トラブル110番(厚生労働省委託事業/第二東京弁護士会) https://freelance110.mhlw.go.jp/

